「あの撮影の意味はわかるか?」
あらためて彼らを見送るとすぐにダニエルが寄ってきた。
「あの撮影の意味はわかるか?」
「記念写真ってことはないよね」
「ああ。我々はすでに顔を知られすぎた。もう取材にはならないかもしれない」
「どういうこと?」
「君はカルテルメンバーへの直接のアプローチを望んでいたな。すでに半分達成しているんだ。これまで取材してきた中にカルテルメンバーがいた」
「ジョーク、ではないよね」
「ああ。こちらが出向くまでもなく、向こうから来てくれるだろうね。今夜か明日かわからないが、君の部屋のドアをノックする者がいるかもしれない。いいか、これは比喩じゃない。訪問者が君の目的を果たしてくれるのか、最悪の結末をもたらすのか、ドアを開けてみるまでわからない」
嫌な予感がした。そして記念写真が手配写真としてカルテルに共有されているのだということに気がつくのに、少しだけ時間がかかった。
彼の妙に詩的な言い回しが余計に恐怖を煽ってくるような気がした。
ハズレどころか、大当たりを引いてしまったようだった。
ホテルの部屋の前に、何人もの気配がする
そしてその夜、私の部屋を訪れる奴らがいた。部屋の前に何人もの気配がする。最初はホセとダニエルの悪戯かと思ったが、それにしては気配が多い。真夜中の訪問者に対してどのように応じるべきか。大袈裟ではなく自分の命がかかっているのが直感的にわかる。どうすればいいのか。自分の判断が正しいのか、間違っているのか。正解は生き残ることではないだろうか。どこに着地するかわからないほど思考が巡る。
私に寄せられる質問でトップ3に入るほど多いのが、「危険な場所に行って怖くないのか」というものである。実際に危険な状況になるとこのように思考がループして、生き残るための判断を下すだけである。そこに恐怖が入り込むことはほとんどない。
自分の判断一つで生死が左右される状況に直面したことのない人にどう説明すればいいのか、難しいところではあるが、実際にはこんな感じなのである。
様々な想定を僅かな時間で繰り返した結果、私の導き出した判断は「居留守」であった。枕に頭を突っ込み何も聞こえないことにした。そもそも本気で拉致するなら部屋に踏み込めばいいし、部屋にいることがわかっていて訪問しているのであれば、単なる脅しや警告のメッセージだろう。そう思ったのだ。