姉が元気だったら、出すなと言うだろうと思う
白石 多くの人は、『どうすればよかったか?』という映画を見た時に、お姉さんが何を言っているかわからなかったり、怖がったりすると思うんです。僕も最初に見たとき、「これを見たら、統合失調症が怖いと思われちゃうなあ」と、ネガティブな気持ちになりました。
というのも、実際にはそんなに怖くない人たちが多いんですよね。僕は、北海道の浦河にある精神障害などをかかえた当事者の拠点「べてるの家」に長いこと通っています。そこにもとんでもない人がたくさんいるんですが、割と会話が成立しているんです。思っていることを正直に言うだけでなく、言葉のやりとりだけを楽しんでいるみたいな、くだらない、ある種の社交的な会話もたくさんある。そっちのほうが多いかな(笑)。
藤野 べてるの方々と映像の姉の違いの一つは、薬物との関係かなと思っています。
白石 べてるは量は少ないけれど、薬は全く否定していないんですよね。薬を飲むと話せるから、飲む。
藤野 今回公開している姉の映像の半分以上は、治療以前の状態なんです。父の投薬を治療と見なさなければ、一般的にはほとんど記録に残らない状態の姿が出ています。姉が急性症状で大きな声を出している映像も入れました。
配給会社とも相談をしたんですが、これは姉の尊厳を考えたら、本来使わないほうがいい映像でしょう。でも全部取り払ってしまったら、両親と僕が「姉が統合失調症かどうか」ということで意見が対立している映像なのに、それを見る人が判断できなくなってしまう。家の中で静かに座っている映像だけで作ろうと思えば作れるんですけれど、最低限必要なものを選んで入れたつもりです。姉が元気だったら、出すなと言うだろうと思います。
姉の急性症状が一番強かったのは最初の3年間ぐらいでした。でも初めて録音したのが9年後なんですよ。映画の冒頭の音声です。あれもかなり激しいけれど、最初のころはもっと強かった。30分くらい止まらなかったり、食事中の口論で興奮して食卓の上に飛び乗ったり。本当に激しいところは何も記録が残っていません。
「いやあ、いいご家族ですねえ」
白石 今回、藤野さんとお話をするにあたって、べてるの創設者の一人でソーシャルワーカーの向谷地生良さんに映画の感想を聞いてみたんです。そしたら、「いやあ、いいご家族ですねえ」って言うんですよ。これにはびっくりしました。
普通の人は、やはりお父さんやお母さんのエゴによって娘が犠牲になっているというストーリーとしてこの映画を受け止めると思います。でも向谷地さんは、両親が娘の尊厳を必死に守ろうとしているという、その動機の部分に本当に敬意を払っていました。それはたぶん、ソーシャルワーカーとして自分が藤野さんの家に出向いたらどうするだろうかと考えているんだと思います。まずはご両親に出会ったら「頑張りましたね!」と伝えることから始めるだろうと。ただそれだけでなく、本当に「いい家族」だと思っているという部分もかなりあると思います。ご両親はお二人とも、お医者さんだったんですよね。
藤野 医師免許は持っていました。臨床医ではなかったので、患者をたくさん見ていたわけではありませんが。
白石 欧米も含めた当時の最新の論文を見たら、誰だって知れば知るほど悲観的になって、お姉さんを外に出さなかっただろうと思います。さらに、ご両親には経済力と、知的権威があるから、外から入れないんですよね。生活保護を受けていたら、もっとどんどん人が入ってきて、逆に外に開けただろうと思います。それが相まってあのような25年間になったと私は思いました。
べてるのみんなに、映画を見てどう思ったか感想を聞いたら、やっぱり「いい家族ですね」って言うんだそうです。むしろ「うらやましい」くらいだと。暴力もないし、お姉さんを大切に思っていると。つまり、そうじゃない家族も多いんでしょうね。それを聞いて、僕はご両親がひどいことをしたという文脈ではない、もう一つの文脈があるなと思って驚いたんです。
そう思って観れば、映画内で具体的にわかる描写はないけれども、お姉さんにきちんとひとりの人間として接していただろうと推測できるようなところはたくさんあったと感じます。
藤野 姉の尊厳を守ろうとしていたという点については、家の中ではそうしていたということかなと感じました。でも、僕はやっぱり、2005年に帰ったとき、玄関に南京錠が付けられているのを見て衝撃だったんです。弟の目線からすると、やっぱり酷いことをやっているという認識が強いですね。


