両親は頑張りすぎたと思う
藤野 僕は両親が頑張りすぎたと思っているんです。もっと早く、今のやり方を変えることを考えてもよかったんじゃないかと思います。
白石 もう頑張らなくてもいいんだって思えるアプローチがあったらよかったのかもしれないですね。「それはおかしい」って、言われれば言われるほど頑張っちゃうのが人間だから。先ほどの向谷地さんの「いい家族ですね」には、そういう意味もありますよね。壁を溶かせば、悪い人じゃないんだから、おのずと良い方向に行くだろうという信念があるのだと思います。
そういえば、べてるの入居者には、親が医者だって人も多いんですよ。だから、向谷地さんは医者の家族の行動として、藤野さんのご家庭で起こっていたことを特殊だと思っていなかったのかもしれない。
藤野 外からそういう声をかけられる状況が存在しなかったから、僕が自分でやろうとしていたんだけど、できなかった。両親の体力が衰えるまで待つことになりました。
「外に出ること」というもう一つのテーマ
白石 僕は、この映画のもう一つのテーマは「外に出ること」だと思っています。お姉さんだけでなく、藤野さんがボート部に入って、家の外に出ることができてやっと安心したという話も書かれていました。もっともお姉さんについていえば、当時の札幌はあまりよくない状況だったから、医療にアクセスしていたら、精神科病院の中に再び閉じ込められる可能性もあったと思います。
ここではない「外」に出る出口を1個作るというのは、膠着したものへのアプローチの原則かなと思います。
藤野 2008年に姉が退院した後、これだけよくなるんだったら、作業所に行ったらもっと刺激が多くていいんじゃないかな、と思って提案したことがありました。1カ月か2カ月おきの通院くらいしか外に出なくなるなら、と思って大分言ったんですけれど、姉は「絶対作業所はダメだ」って言っていました。
白石 プライドが許さなかったんでしょうか。
藤野 たぶん、そうだと思います。べてるの家のことも紹介しました。
白石 べてるは作業というより、ただ話をしているだけなんですけどね。
藤野 そうですよね、でも姉は「やっぱり家がいい」と言っていました。ちょっと浦河は遠すぎるみたいでした。本人が嫌がるのを無理に勧めるわけにはいかないから、諦めました。
姉は自分の基準だけで生きていたから、自分と全然違う人がいるところで暮らすだけでも、刺激が違うんじゃないかなあと思ったんですけどね。同じ刺激ばかり受けていては、刺激がどんどん弱くなってしまう気がするんです。でも、うまくいかなかったです。
白石 統合失調症の人って、外からの刺激を大きく受け取って苦しくなっちゃうんだと思うんです。刺激への恐怖があると思います。それなら、常同的に同じことをやったほうがいいっていうのはわかりますし、そもそも精神科の薬って、基本的には鈍くなる方向を目指したものですからね。

