姉の葬儀と父への追加インタビュー

藤野知明さん ©三宅史郎/文藝春秋

藤野 テーマからすれば、精神科を退院後に、姉にガンが見つかった話は蛇足です。でも姉に統合失調症であるという病識が無かったので、そのタイミングでは世に出せませんでした。それ以降は惰性で撮っていました。姉の葬儀のシーンも撮るつもりはなかったのですが、あまりにも父の言っていることが「これはどうなんだろう」と思ったのでスマホで撮影しています。

白石 葬儀でお父さんが、共同執筆した論文をお姉さんの胸に置くんですよね。

藤野 父は姉を、研究を手伝ってくれた親孝行な娘だと思いたかったのだと思います。違和感はあったけれど。父が論文を探してくれって言うから探して、棺桶に入れるんだろうなとは思っていましたが、本当にするかどうかわからないなと思って、渡したら入れていました。

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白石 親戚の人が「もう勉強は嫌だって言ってるかも」って言ったと本にありましたね。あれはすごくよかったです。

藤野 最初は「これであの世でも勉強できるね」って言ってたんです。僕が「したければね」って言ったら、それに気づいた人が、そう言ってくれた。親戚の人もわかってるんですね。父は、「この論文で始まって、この論文で終わったんです」って、その流れを全部聞こえなかったかのように言ってましたけれど(笑)。

 それでも終わった気がしなくて、ほとんど編集が終わった段階で、父にもう一度聞いておこうと思って、インタビューを追加で撮影しました。

白石 お父さんのインタビューは圧巻でした。最後、本にも書いてありますが、「カットです、カット」って言うじゃないですか。あれは本当にすごいなあと。本にも「人間というものはそういうものだ」って書いてありましたが、藤野さんの諦めみたいなものと、これで終わったっていう気持ちが、あの言葉から聞き取れた。

藤野 カメラマンがいたら意味があるけれど、一人で撮影しているから「カット」って言う必要はないんですよね。あとで編集で落とせばいいかなと思いながら言いました。ほとんど編集も終わっている状態で、「ようやくこれで終わるんだな」というのがあって、言いたくなっちゃったんですね。

白石 成功して終わったとかじゃないんですよね。もうここでいいや、これ以上はないっていう諦めと、もう十分だ、という感情が同時に表れている。

藤野 そうですね。「やったー!」ではなかった。父の答えは、僕が期待しているのとは違う方向のものもあったんですが、聞きたい答えを言うまで問い詰めることには意味がないと思って。父がそういう答えをしたことで伝わる意味もあるんじゃないかと、先に進みました。それでちょっと力が抜けましたね。やりつくしたな、これ以上のことはもう現時点ではないだろうと思って、「おしまい」って気持ちになりました。

白石 満足感はありましたか。