「夫婦喧嘩の仲裁を小学生にやらすな、って」

『血脈』の終盤、シナが愛子夫婦と住むことを決心した場面を佐藤さんはこう書く。〈シナの居場所としては床の間に違い棚つきの八畳の座敷でなければならない。その南側には四尺幅の縁側。それは三尺ではいけない〉

響子 祐天寺から戻るにあたり、2階屋を建てたんです。シナの家の方は2階のない平屋で、うちの母の書斎は2階、1階に応接間、隣が父の書斎。その隣は四畳半で、みんなでテレビを見たりする部屋でした。

桃子 時々、ちっちゃいあなたが両親と遊んでる写真を見るけど、それはそこ?

響子 そうそう。話していて思い出したけど、昆布屋のおっさんのドラマがあったんです、長門裕之が主演で。それを母と父は、夫婦揃って楽しみに見ていて。

ADVERTISEMENT

桃子 ネットに出てるね。「横堀川」(66年放映、NHK)というドラマらしい。

家族3人が集まるのはテレビのある四畳半。〝昆布屋のおっさん〟もここで見た。

響子 夫婦喧嘩をした後、母が仲直りの気分になったんでしょうね。「響ちゃん、パパに昆布屋のおっさん始まるよって言っておいで」って言われて。父の書斎と茶の間は襖で仕切られていたんだけど、私は指一本分くらい襖を開けて、「パパ、昆布屋のおっさん、始まるよ」って。夫婦喧嘩の仲裁を小学生にやらすな、って思いますよ。

桃子 自分から謝るのは、あの人には絶対無理。

響子 母が急にムカムカッとして、喧嘩が始まることが多かったですね。紅茶茶碗を割った話とか、書いてましたでしょ。父は紅茶が大好きだったんです。飲みかけの紅茶が入ったカップをアイロンでガンと叩いて、木っ端微塵にしたんです。

『それでもこの世は悪くなかった』(17年刊、文春新書)によれば、それは田畑氏が事業に失敗した直後のこと。借金取りから逃げて家にこもっている田畑氏が、アイロン掛けをしている佐藤さんに「紅茶」という。佐藤さんが淹れて渡す。〈そのうちにムラムラと怒りが込み上げてきて、いきなりアイロンを振り上げてバーンとね、紅茶茶碗を殴ったんです〉

響子 父は「なんだよ」とだけ言って、割れた欠片を拾ったと、そんな話でしたよね。そもそもお金がなくなってきていたから、出涸らしの葉に熱湯を注いで、スプーンでぎゅうぎゅう押した『色だけ紅茶』なんですけどね(笑)。とにかく年中、やってましたよ、夫婦喧嘩。