それからおよそ10年後、カラヴァッジョにとってはすでに最晩年の時期に、『ゴリアテの首をもつダヴィデ』で自分を再登場させている。
『ゴリアテの首をもつダヴィデ』
全イスラエルを統一した、英雄中の英雄ダヴィデの若き日のエピソードだ。旧約聖書によれば、イスラエルはペリシテとの戦で敗けが濃厚になっていた。というのも敵には身長三メートル近い巨漢ゴリアテがいて、誰も敵わなかったからだ。
そこへ羊飼いの少年ダヴィデが現れる。ゴリアテと対峙した彼が石投げ紐(Y字形のありふれたパチンコ)を取り出したものだから、ペリシテ人は大笑い。だがダヴィデがそのパチンコで小石を放つと、それはみごとゴリアテの額に命中して地面に倒す。ダヴィデはすかさず近寄り、ゴリアテの首を剣で斬り落とした。こうして戦況は逆転したのだった。
ダヴィデがゴリアテの巨大な首を掲げる絵画は数多いが、カラヴァッジョは己をゴリアテに見立てて描いた。首は切断部から血腸を垂らし、半眼の目は虚ろで、口はだらりとあけている。眉をひそめてこの首を持つダヴィデには神聖さの欠片もなく、ローマの汚い通りを走り回っている不良少年そのままだ。
「壮麗なまでの美」からはるかに遠いこんな少年に殺されるゴリアテことカラヴァッジョ。そしてその額には、まるでカインの罪の印のようにめりこんだ石。
本作の制作意図については、ローマの赦しを得るための「反省」画、単なる逃亡先での注文画など、諸説あるが、この絵を見る限り、彼は己の死を聖マタイのそれとは全く違う、情けないものだと予感していたかに思える。
※本記事内で掲載している絵画の画像は書籍に掲載されているものとは異なります。実際の絵画はぜひ書籍でお楽しみください。
