近年、中台間の緊張が高まっている。主たる理由は中国側の軍拡と習近平の台湾への強い関心にあるのだが、台湾側も2024年5月の頼清徳政権の成立以降、中国の安定的な関係維持を考慮しない前のめりな姿勢が目立つのが事実だ(3月7日の台湾行政院長の訪日・WBC観戦などもこれに含まれる)。

 コンテンツの分野でも、従来はタブーだった台湾有事を取り上げる作品が出ている。その代表選手が、中国の台湾侵略をモロに描いたテレビドラマの『零日攻擊 ZERO_DAY』(2025年)だ。こちらは中華民国国防部が大きく協力しており、ちょっとプロパガンダの匂いもするのだが、話題になったことは確かである。

 そして現在、今度は映画をプラットフォームに、もうひとつの「台湾有事」作品が制作中である。監督は、かつて1990年代の台湾政治がテーマの連続ドラマ『国際橋牌社(アイランド・ネイション)』を制作した汪怡昕(ワンイーシン)だ。前作の『国際橋牌社』は李登輝や陳水扁をモデルとする政治家がばんばん登場するものすごいドラマで、やはり話題になった。

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 そんな汪怡昕が現在手掛けるのが、映画『国運之戦』である。まだ制作中で、今年秋に台湾で封切られる。内容は1995年~1996年の台湾海峡危機、すなわち現代の情勢よりも「ひとつ前の危機」を描く、ガチな軍事映画だ。インタビューを通じて、映画から見える現代の危機と、台湾のいまに迫ってみよう。

汪怡昕監督。作品に妥協しないタイプ 撮影=安田峰俊

中国大陸ギリギリの小島を守っていた

——なぜいま、90年代の台湾海峡危機の軍事映画を?

汪怡昕(以下、汪) 当時、台湾で初の総統の直接選挙がおこなわれ、中国がそれを望まず大規模な軍事演習をおこなった。ただ、この件は現代の台湾人も詳しく知りません。そこで、当時の台湾海峡危機における軍人たちの物語を描こうと考えたのです。この題材は、自分自身の体験も大きく反映されているんですよ。わたしはむかし李登輝さんと関連した仕事をしたことがありますし……。

中国の軍事恫喝は1995〜96年も深刻だった。國際橋牌社の公式YouTubeより

——世代的に、監督は前回の危機のとき青年だったわけですね。

 そうです。順を追って説明しましょう。当時の危機のなかで、台湾の李登輝政権は中国に関してさまざまな情報チャンネルを持っていました。アメリカや日本からはもちろん、中国の体制内との連絡ルートもあったのです。

 たとえば、李登輝の辦公室(オフィス)主任だった蘇志誠さんは、曾慶紅(当時の中国側の江沢民政権の懐刀)と連絡を取れました。あと、台湾側の国家安全会議の張栄豊さんは、定期的にタイで人民解放軍側の人間と会っていた。

——李登輝政権の凄みですね。中国に不都合なことをたっぷりやりつつ、がっちり水面下のチャンネルは持っていた。

 ええ。そうして台湾側が得た情報では、人民解放軍にはタカ派とハト派がいた。で、戦争をやりたがっていた一派は、軍事演習の途中で台湾の離島を奪取し、そこにいる人間を人質にして台湾側と交渉する計画を立てていた。

——中華民国は1949年に国共内戦に負けて台湾に逃げ込みましたが、実は大陸の近海の島をいくつか実効支配しています。福建省の金門島と馬祖島と付属島嶼ですよね。

 その通りです。私は当時、兵役で馬祖地域の守備隊にいました。付属島嶼のなかで中国大陸と最も近い場所に、高登島(ゴールデン・アイランド)という小島があり、そこにいたんです。当時は非常に緊張していた。台湾海峡危機についての、私の原体験です。