台湾の政治家たちに共通すること
作品について話題が終わってから、私は汪怡昕と雑談してみた。彼の過去のキャリアは非常にユニークで、李登輝の長編ドキュメンタリーや柯文哲(第三党の台湾民衆党の創設者)の台北市長時代のPRビデオ、洪秀柱(国民党の親中派女性政治家)が党首選に出たときのイメージ映像……と、台湾のさまざまな陣営の大物政治家の映像を撮り続けてきたらしい。
もっとも、どうやら彼がいちばん思い入れがありそうな人物は李登輝だ。若き日に高登島で前線守備隊をやっていたときに、彼と台湾全土の命運を握っていた人物である。汪怡昕は映像の仕事をしてから、李登輝と交流を持つようになった。その印象について、最後に尋ねた。
「これまで、仕事でたくさんの政治家を見てきました。彼らは白や黒で色分けできる存在じゃない。その中間のグレーで、白味と黒味の濃淡が違うだけです。完全に真っ白な人も、完全に真っ黒な人もいない。だから、李登輝のすべてが正しかったとは言わない」
「ただ、私は彼を非常に尊敬していて、この100年のアジアにおいて最も優秀で重要な政治家だったと思っている。なにより、長期的視点と政治手腕は卓越していました」
「政治の本質は『交換』(Exchange)です。自分の主張の正しさだけじゃ通用しない。こちら(たとえば与党)が何を相手(野党)に譲り、相手が何をこちらに渡すか。その凌ぎあいですよ。政治の世界に聖人はいない。でも、『交換』のなかで自分の目標をどう果たすか」
そんな観点から、彼は李登輝を評価しているらしい。現実的制約のなかでいかに上手に妥協して、自分が本当に欲するものを実現するかが大事だということだ(ちなみに、ドイツのビスマルクも「政治は可能性の芸術」という似たような意味の言葉を残しており、この言葉は李登輝の次に総統になった陳水扁が引用していたりする)。
現在の台湾は、外に中国の脅威、内に与野党の深刻な対立を抱えており、頼清徳政権は難しい舵取りを迫られている。そんな社会で、汪怡昕の台湾海峡危機ムービーはどう受け止められるのか。動向を見守りたい。