もっとも、木村自身は『白い巨塔』に出演直後のインタビューで、《自分に嘘をつきたくないんです。ただ泣けば悲しさが伝わるわけではないだろうし、涙が出ないのにオイオイ泣く芝居も出来ない。(中略)“泣くという行動”ではない何かで気持ちを伝える。そういうことをしたいなと思っているんです》と語っているように、泣く演技を必ずしもよしとはしていなかった(『放送文化』2004年夏号)。

20歳の頃(木村多江のインスタグラムより)

「泣くってことがイヤだった」CM撮影、広告マンとの結婚も

 同時期に出演した三菱自動車のCMでも、木村演じる結婚を控えた娘が父親とドライブしながら涙を流す姿が強い印象を残した。もっとも、このときは監督から泣いてほしいとの要望はなく、彼女自身も泣かないでおこうと思って撮影に臨んだという。《ああいうシチュエーションで泣くってことがイヤだったんですね。それまで普通にしゃべっているのに、急に涙を見せるなんて、家族の前で涙を見せるなんてイヤじゃないですか。普通の女の子のリアルな感情として》というのがその理由だ(『放送文化』前掲号)。

 しかし、何度か撮っているうちに、一度だけどうしても涙を止められなかったテイクがあり、それが結果的に採用されてしまったのだという。ちなみにこのCMを担当した広告会社の社員と、彼女は2005年に結婚している。

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木村多江(2014年撮影) ©文藝春秋

 木村はもともとミュージカルの専門学校で学び、舞台俳優として出発したが、23歳だった1995年に現在も所属する融合事務所に入ると、テレビや映画を軸にしてやっていくことになり、舞台出演は売れるまでおあずけとなった。

 それでも、《役者が、ある人の人生を生きるのだとすれば、場所は関係ない。その役を愛おしいと思える役者でいよう》と思って(『AERA』2010年9月13日号)、どんな役でも徹底的に台本を読み込み、その背景にある人生を意識しながら演じることに全力を注いだ。ブレイクのきっかけとなったドラマ『リング~最終章~』(フジテレビ系、1999年)でも、幽霊の貞子の思いを掘り下げるうちに恨むのも当然だと気づき、ただ怖いだけではない、彼女の悲しみを表現しようと心がけたという。

『リング』で貞子を熱演(木村多江のインスタグラムより)