放送から10年…『逃げ恥』が見せてくれた、“可能性”と“限界”

──家事労働の価値を可視化した大きな契機といえば、やはりドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』でした。放送から約10年経ちますが、今、あのブームをどう捉えていますか。

瀧波 本来なら、「家事ってなんでお金が支払われないの?」というのは当たり前の疑問だと思うんです。しかし、それが物語という形で描かれてようやくハッとするということに当時気付かされました。

河野 僕も一気に時代が進んだと感動しました。ジェンダーの問題に加えて、家事や育児、介護などといった「再生産労働」の問題も描かれるようになったのかと。しかし、同時に「家事労働の賃金化」って、実は新自由主義的(ネオリベラル)な解決策なんですよね。資本主義そのものは否定せず、むしろ「家事に価値があるなら市場に入れろ」という論理ですから。

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TBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」公式HPより

──なるほど、もう少し詳しく伺いたいです。

河野 一旦日本の状況を整理してみましょう。1985年に男女雇用機会均等法ができて、多くの女性が働き始めました。その一方で、今まで女性が無償で担っていた家事を誰がするのかという問題は放置されてきた。『逃げ恥』はそれに対して「家事労働の賃金化」というアンサーを示しました。

 近年、「人権」「社会的公正」などといった従来のフェミニズムの理念ではなく、市場における優秀な女性の「活躍」「成功」などによって男女の平等が達成されるという考え方が、世界的に広がっています。しかし、この考え方のもとでは、外での賃金労働と家庭内での労働のバランス、つまりワーク・ライフ・バランス(WLB)の問題が生じる。

 WLBの解決を模索する思想を「ネオリベラル・フェミニズム」と呼びますが、そこで出てくる解決策の多くは一部の女性にしか手に入らないものです。みくりは家事を業務として再定義し、家庭内での地位を築きましたが、これは「有能な個人」にしかなかなかできません。また、すべての問題を市場内で解決しようとするやり方である点も、「ネオリベラル・フェミニズム的」と言えるわけです。