『じゃあつく』は女性にとって“薬”になる作品だが…

──近年の作品でいうと、昨年のドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』も話題となりました。ハイスペックながら時代遅れな価値観を持つ「化石男」だった勝男(竹内涼真)が、同棲中の鮎美(夏帆)に古典的なプロポーズをして振られた後に、彼女の手料理の味を再現しようと自炊することで成長していく物語です。

河野 2010年頃に「イクメン」という言葉が流行りましたよね。ただ、その像にうまく適応できるのは比較的余裕のある中間層以上の男性に限られていて、「弱者男性」とも言われるような人たちはむしろフェミニズム的なものに対してルサンチマンを抱いてしまう……という分断が生じた現象でもあった気がします。

 物語の中の勝男はエリート男性ですが、価値観は昭和のままという設定です。料理の腕を上達させていく彼の成長に熱い視線が集まりましたが、個人の成長ストーリーとして称賛されてしまうことで、女性が日々の家事を担わされている社会構造が無視されるという危うさがありました。

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TBSドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」公式HPより

 私が教えている大学のゼミでは、「勝男は根本的に変わっていないのではないか」と言う学生も多いんです。料理にこだわりは見せても、それが「持続可能な家事」なのかという疑問です。

瀧波 原作が女性媒体で女性に向けて描かれた漫画である、という視点も重要です。思い上がった勝男に女性読者は「こういう男、本当に嫌」とイラッとするし、勝男が反省すると嬉しくなるし、時に癒やされもする。一種の「薬」になるタイプの作品です。

 でもドラマになると、メッセージが社会全体に向けて提示されることになります。『逃げ恥』もそうですが、女性向けの「薬」の要素がある作品の展開が、社会的な賛否で語られるプレッシャーは、一人の作者が背負いきるには重すぎますよ。とはいえ、もし現実にあんなにたくさんの人に支えられ、見守られながら成長していく男性が目の前にいたら……「甘えてんじゃねぇぞ!」くらいの気持ちにはなりますね(笑)。