「もうダメかもしれない」――その言葉が、現実になろうとしていた。
行列が絶えなかった有名ステーキ店から、ある日を境に客が“消滅”した。売上は過去最悪を更新。原因は不況でも、味の低下でもない。日本中が知る“ある訃報”が、街から人を消し去ったのだ。
2020年3月30日。外食産業の空気が一変したその日、現場では何が起きていたのか。コロナ禍の始まりとともに突きつけられた、あまりにも過酷な現実を、元レスラーで、ステーキハウス『ミスターデンジャー』を経営する松永光弘氏の新刊『令和のステーキ店経営デスマッチ コロナ禍に完全勝利も物価高地獄でリングアウト寸前?!』(西葛西出版)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)
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志村けんさんの訃報…… 翌日から店に閑古鳥が鳴いた
2020年3月30日。
この日から『ミスターデンジャー』の売り上げは過去最悪に落ち込むことになります。どうして、明確に「この日」と日付まで断言できるのか? それはこの前日の29日に、人気タレントの志村けんさんがコロナにより亡くなったというショッキングな訃報が報じられたからです。
この翌日からピタッと客足が止まってしまいました。それまで、行列が絶えなかったステーキ店から、行列が消えた日。いや、そんなレベルではなく街から人が消えた日でした。
ぼんやりと「コロナ、怖いね」と話していたのが、日本人なら誰でも知っている有名人が亡くなってしまったことで「本当に怖い」に変わった。志村さんが病院に搬送され、最先端医療を受けている話も報道されていたので「そこまでしても治らない病気なのか」とコロナに対する恐怖心が一気に跳ね上がってしまった。そうなると「不要不急の外出」を積極的に避けるようになり、街から人が消えてしまったわけです。
参りました。
これまでも何度となく「もうダメかもしれない」と頭を抱えてしまうような危機に遭遇してきましたが、根本的なお客さまの数が減ることはなかったのです。経営的な要因で資金繰りに困りはしても、ずっと店自体は盛況が続いていた。だからこそ「お客さまのためにも店を潰すわけにはいかない」と踏ん張ることができたし、一時的な苦境さえ乗り越えれば、絶対に店の経営を軌道に戻すことができるという自信もありました。
しかし、今回ばかりはお客さまの絶対数が目に見えて減ってしまった。いつ戻ってきてくれるのかは、誰にも分からない。数週間から1カ月というスパンであれば、なんとか耐え忍ぶことはできても、これが3カ月、半年と長引くようであれば、赤字はとんでもないペースで膨らんでいき、もはや店を畳まざるを得なくなってしまう。昨日までの『そよ風』は、絶望的な『暴風雨』に変わっていたのです。

