客足は戻らず、赤字は確実。貯金もいずれ尽きる——。追い詰められた有名ステーキ店のオーナーは、ついに“閉店”を決断する。だが、その結論は、ある一言で覆される。

 コロナ禍で外食産業が崩壊寸前に追い込まれるなか、経営者の心を動かしたのは数字ではなかった。従業員の涙の訴えが導いた、予想外の結末とは? 

 ステーキハウス『ミスターデンジャー』を経営する松永光弘氏の新刊『令和のステーキ店経営デスマッチ コロナ禍に完全勝利も物価高地獄でリングアウト寸前?!』(西葛西出版)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む

ADVERTISEMENT

レスラーからステーキ店経営者に転身した松永光弘氏(写真:本人提供)

◆◆◆

世間の空気感が恐ろしい

 そうこうしているうちに「緊急事態宣言」が発令されます。いままでSF映画の中でしか聞いたことのないようなイカつい響き。さらには人の流れを止めるため首都圏をロックダウンするという噂も流れました。「緊急事態宣言」「ロックダウン」などと、あんな物騒な言葉を朝から晩までテレビで連呼されたら、たまったもんじゃありません。

 プロレスでは場外乱闘になると、リングアナウンサーがあえて声のトーンを上げて『場外乱闘、お気をつけください、お気をつけください!』『選手のまわりに近づかないでくださーいッ!』と絶叫し、観客に危険を知らせつつ、その非日常感を演出してくれますが、それに近いものを感じましたね。プロレス会場の場合は観客が逃げまどい、コロナ禍では人々が家に籠りきってしまう。本当にそこまで危険なのか? という意見があっても、それを発信してしまったら非国民扱いされそうな目に見えない圧力すらありました。コロナそのものよりも、そんな世間の空気感が恐ろしいなと、今になってひしひしと感じます。

 プロレスの場外乱闘なら20カウント以内には終わりますが、コロナ禍はいつ終わるのか分からない。そんな状況で妻と「これはもう店を畳むしかないかもね」と話し合いました。徐々にではありますがお客さまは戻ってきて、さすがに閑古鳥が鳴くような日は少なくなってきたけれども、コロナ前と比べたら減収は必至。なんとか営業を続けることはできるけど、4月以降の大幅な集客減で赤字は避けられない。

 とりあえず貯金を切り崩して、赤字を補填すれば店は回るけれども、これが何カ月も続いたらと考えたら、もう絶望しかありません。