賢くないクマは死んでしまう
母親からうまく育てられなかったり、早いうちに母親から離れてしまったり、あるいはうまく経験を積めなかったりしたクマ、つまり賢くないクマはきっと若いうちに死んでしまうのだろう。クマに限らず野生動物というのは、厳しい環境の中で生存競争を勝ち抜くような「したたかな」個体しか生き残れない。私たちが追跡中のクマの中には29歳というクマもいたが、平均寿命はもっと短いはずで、おそらくその長寿のクマの半分程度ではないだろうか。
賢いクマといっても、明らかにこの個体と指摘するのは難しい。だが、賢い個体は確かにいる。例えば、私たちは25年ぐらいずっと同じ場所にわなを仕掛け、クマを捕獲してGPSを装着する調査を続けているが、毎年のように同じ個体が捕まることがある。毎年毎年、わなにかかってしまう個体もいれば、10年に1度くらいしかかからない個体もいる。
観察するために仕掛けた自動撮影カメラには撮影されるけれど、わなには決して入らない個体もいる。個体ごとに慎重さ、あるいは警戒心の違いが大いにある。そして、そうした慎重さや警戒心は、例えば山に食べ物がないときに、フラッと人里に出るか出ないかというところに表れてくるだろう。
また、母親の子育て巧拙は、子グマが親離れした後の生存競争に大きく影響するようだ。私たちはいろいろなメスを長く観察しているのだが、子育てがうまいメスは2、3年に1度、コンスタントに子を生んでちゃんと育てあげる。その一方で、2、3年に1度は子どもを産むけれど、毎回のように何らかの理由で子どもを失ってしまうような母親もいるのである。やはり、次の世代をうまく残すことができるのは、クマに限らず、どんな生き物にとっても重要な資質だ。
また、個体がどう生き抜いていくかということも、次世代を残せるかどうかに関係する。多くのオスは5、6歳ぐらいで身体の成長が落ち着いてくるのだが、10歳でも体重が40kgぐらいしかない個体もいるし、100kgぐらいになる個体もいる。オスの体重がどう繁殖に影響するかは、まだはっきりとはわからない。だが、身体が大きいほうが子供を多く残す傾向があるので、やはりその個体がどう生きてきたか、身体をどう大きくしたのかという能力は、生存競争を含め、繁殖をめぐる競争において子孫を多く残すことに影響しているのではないかと思われる。
ここまでクマの能力や性格、個体差について見てきた。では、こうしたクマたちは、実際に山の中でどのような生活を送っているのだろうか。季節ごとの暮らしを見てみよう。
