オスとメスの社会構造

 オスとメスの個体数の割合は、オスが若干多いかもしれないが、どの地域でもだいたい半々だ。これは男性のほうが育ちにくいとされる人間でも同じだが、おそらくクマも出産時にはオスのほうが多く生まれるものの、その後の生存競争で淘汰され、成熟した個体ではオスとメスがほぼ同数に落ち着くのではないかと思っている。

 また、私たちは20年以上かけて捕獲した100頭以上のクマの家系図を描いてきたが、ある一時期に特定のオスの子ばかりが増えるような現象が起きる。その後、そのオスが年老いていくと、そのオスの子も生まれなくなる。また別のオスが出現し、同じような現象が起きる。おそらく、オスには生殖をめぐるヒエラルキーがあり、特定のオスがメスとの生殖行動をほぼ独占しているのではないかと考えられる。子を多く残しているようなオスのクマを捕獲してみると、身体中が傷だらけだったりする。日々、オス同士でメスをめぐる闘争を続け、自分の子孫を残しているというわけだ。そうしたオスも他のオスとの闘争に敗れ、いずれはいなくなってしまう。厳しい世界なのである。

 繁殖について述べると、オスもメスもだいたい3歳で生理的には性成熟し、生殖が可能になる。メスの場合、3、4歳で身体の成長が止まる個体が多いが、オスは前述した通り性成熟後の5、6歳まで、あるいはその後も身体の成長が続く個体もいる。オスの場合、父親になれる年齢はだいたい5歳以降になってからが多いことからも、生理的に成熟しても、オス社会での競争が非常に激しいので、まだ3歳くらいの小さいオスのクマは繁殖行動には参加できないのだろう。オスは性的に成熟した後も、ずっと身体を大きくし続け、やっと他のオスに対抗できる大きさになってから、繁殖競争に参加できるようになる。親離れ後の移動距離が長いオスの一生はあまりよくわかっていないが、性成熟後も、身体が大きくなるまではおそらくあちこちを転々として過ごしていると思われる。その間もなんとか繁殖行動に参加できないか、必死に探しながら生き延びていくのだろう。

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 一方、メスは比較的、親離れ後も遠くには移動せず、生涯にわたって生息域は固定している傾向が強い。成長しても大きくは移動しないので、母系集団というわけではないが、地域的にはやはりある特定の母系の個体が集まっている。そうした個体群では、メス同士は母娘であったり姉妹であったりするわけで、例えば山の食べ物が少なくなっても、ある程度はお互いに争わず、寛容に行動しているのではないかと思われる。