「永遠の化学物質」と呼ばれるPFAS(ピーファス)。色もなく、匂いもなく、味もしない。だが、この見えない化学物質が日本の飲み水に入り込んでいる。2026年4月、日本はようやく水質基準を義務化したが、その数値は甘く、規制は世界から大きく遅れたままだ。(全2回の1回目/続きを読む)
(初出:「文藝春秋PLUS」2026年3月24日配信)
「日本の水は安全か」
文藝春秋PLUSの番組「+RONTEN」に、ジャーナリストの諸永裕司氏が出演した。テーマは「日本の飲み水が危ない」。新刊『灰色の鎖 PFAS汚染列島』(文藝春秋)を上梓したばかりの諸永氏は「日本の水は安全か」と問われ、開口一番こう答えた。
「一言で言えば、安全とは言い切れない」
化学物質「PFAS」が放出され、残り続けている
問われているのはPFASだ。有機フッ素化合物と呼ばれる人工的な化学物質の総称で、その種類は1万にも及ぶ。分解されにくく蓄積されやすいことから「永遠の化学物質」とも呼ばれる。水と油をはじき熱に強い特性があるため、フライパンのテフロン加工や衣類の防水加工をはじめ、幅広い製品で使用されている。
その中でも特に代表的なのが、PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の2物質。これらは最も広く使われ、健康への影響も最も強いといわれる。PFOSは主に泡消火剤に、PFOAは主に工場でのコーティング加工などに使用されてきた。日本国内ではPFOSは2010年に、PFOAは2012年頃には使われなくなったが、これまで50年以上にわたり、工場などから放出されたその化学物質は土壌から地下の水に浸透し、分解されないため今なお残り続けている。
腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎に
では、「永遠の化学物質」が体に入るとどうなるのか。諸永氏によると、PFOAについては腎臓がん、精巣がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、妊娠高血圧症、高コレステロールなどとの因果関係が認められ、子どもが産まれるときの体重の低下をもたらすこともわかっている。出生体重の低下は成長後に、さまざまな疾患にかかるリスクを高める。ほかにも、乳がんや膵臓がん、免疫力の低下などを引き起こすとの研究もある。
ただし、水俣病のように病気と症状の1対1の関係が明確ではない、と諸永氏は説明する。因果関係が見えづらいことこそが、この汚染を「ステルス汚染」たらしめている特徴だという。


