サードプレイスの文化を持ち込む

あるときイタリアを旅したシュルツは、イタリア人が日常的にコーヒーを飲むバールに感銘を受けます。イタリアのバールは、単にコーヒーを飲む場ではなく、「人と人とのつながり」が生まれる場所です。

「スターバックスには足りないのはこれだ」と気づいた彼は、家庭と職場とは区別される「第三の場所(サードプレイス)」としてのカフェ文化をアメリカに持ち込みます。アメリカ人が知らなかったカフェラテもこのときに導入され、のちにシアトル、全米、そして世界へと広がっていきました。スターバックスはユーザーを「教育」していったのです。

そんなスターバックスにも危機が訪れます。1994年、ブラジルで深刻な霜害(そうがい)が発生し、コーヒー豆の価格が急騰します。多くのコーヒー関連企業は即座に値上げしましたが、スターバックスは違いました。

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値上げは避けられない。でも、それをどう伝えるかが大切だ、とシュルツは考えます。スターバックスは、お客さんに対して正直に、原材料費の高騰とその影響を説明し、理解と共感を求めました。これが、顧客からの信頼をより強固なものにしたのです。

スタバがCMなしで成功した理由

現在のスターバックスは、2000以上の店舗を展開する日本で最もポピュラーなカフェチェーンの一つですが、テレビでCMを見ることはありません。スターバックスは、大規模な広告宣伝なしで全国展開に成功しました。

その理由はシンプルで、「お店で働いている人たちが、スターバックスの理念と味に本気で惚れ込んでいたから」です。本物の熱量が、ブランドの信頼性をつくり、お客さんが自然とファンになってくれたのです。

スターバックスは、ある1人の青年が「人生を変えるような1杯のコーヒー」と出会い、そこに人間味や情熱、誠実さを注ぎ込んでつくった「体験のブランド」なのです。カフェという空間が、ただの「場所」ではなく心がほどける時間を提供してくれると感じたことがあるなら、シュルツの思いは今も息づいていると言えるでしょう。