スターバックスの「センスの世界」の扉を開けるとき、私たちはイギリスの哲学者デイヴィッド・ヒューム的な世界観、あるいはフランスの社会学者ピエール・ブルデューの用語では「贅沢の趣味」に足を踏み入れています。
哲学者のヒュームは、趣味には「基準」があり、それは経験や感性を磨いた人間によって見出されると説きました。ヒュームは、優れた趣味を持つ人は、微細な違いを察知する能力が高いと考えました。香辛料のわずかな香りの違い、ワインの微妙な味わいを見分ける「感度の鋭さ」は、人間を未開の状態から引き上げ、知的な喜びをもたらすと説いたのです。
スタバが売るのは「自己表現のプロセス」
ヒュームは、幸福には「行動」「休息」「快楽」のバランスが必要だと考えました。洗練された贅沢品(高級なコーヒーや香辛料、芸術)は、この「快楽」を刺激し、産業を活性化させる「社会の潤滑油」であると肯定したのです。
「好みは人それぞれ」と言いつつも、なぜか時代を超えて高く評価される名作や名品が存在します。ヒュームは、偏見がなく、経験豊かで、多くの比較をした「優れた判定者」が認めるものこそが、趣味の基準になると考えました。上流階級が香辛料や芸術に投資したのは、「自分にはその微細な違いを理解できる感性がある」と証明するためでもありました。
スターバックスはコーヒーだけではなく、第三の場所という「物語」や、カスタマイズという「自己表現のプロセス」を売っているのです。そして「ラテにキャラメルソースを追加し、豆をディカフェに変更する」という選択は、フランスのプチブルジョア資本主義が提示した「差異化」の論理につながります。スターバックスに行くことは、単なる消費ではなく、自らの感性(趣味)を確認し、洗練させるという「儀式」なのです。
ドトールのこだわりは「豆」
「趣味のよい」とされるスターバックスに対して、便利でコスパがいいのが、現在、日本でスターバックスに次いで店舗数の多いドトールコーヒーです(2026年3月現在、約1080店)。街中でよく見かけるリーズナブルなカフェチェーンですが、実はその1杯のコーヒーの中には、驚くほどのこだわりとドラマが詰まっています。