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仕事に忙しく70年近く自分の欲求を抑えて、美容院の中だけで生活していました。お客様がいる以上、長期の休みは申し訳ないと考えていたようで、旅行に出かけたのを見たことはありません。
メキシコ旅行に行った頃も、美容院は続けてはいました。それでも、心理的に解放されたこともあったのか、自分に正直になれたようでした。その旅のことを母はこう綴っています。
〈老化と云ふ言葉が多く目に入るこの頃ですけれど、毎日を働いてゐる私に老後はあるのかな、なんて思ってゐました。歳のことなど忘れてゐました。(中略)
空は高く空気は美味しく、ブーゲンビリヤの花もハイビスカスも、見事に咲いてゐます。身も心もすっかり解放されて、楽しい旅でした〉(『あぐり白寿の旅』)
その後もイタリアやネパール、台湾などに知人に助けてもらいながらの旅を続けました。
97歳まで続いた母娘の2人旅
95歳になった時に、これ以上多くの方に迷惑をかけるわけにも行かないと考え、私と2人だけの国内旅行をすることにしました。
その頃になると、何かにつけて「あそこは、50年前から行きたかったところなのよ」という謳い文句とともに、母から行きたいところを提案されるようになりました。
私がロケで能登半島に行くと告げれば「私も行くわ」。2人の旅は、母が97歳になるまで続きます。