100歳を目前に自立が困難に

 退院後、重いものを持って倒れたり、高い所のものを取ろうとしてひっくりかえったりして、入退院を繰り返すようになります。そして、100歳を迎えるころには、とうとう自分で立てなくなりました。

 寝たきりになってから、お医者さまからは「施設はいくらでもありますから、このまま自宅には戻らずに入ってもらってはどうですか」と勧めていただきました。

 ところが、本人にはその気がありません。退院が近づくと「早く家へ帰りたい」ときっぱり。こうなると、私はなかなか施設のことを言い出せません。正直に言えば2、3年頑張れば気分よく旅立ってくれるだろう、ぐらいの気持ちで一緒に家に帰ることにしたのです。それから自宅介護が始まりました。仕事を抱えながらの介護は、私の想像を越えるものでした。

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 施設に入ってもらえれば、負担は軽減されたと後悔したこともあります。そう思う度に、そろそろその時が来るだろうし、「あと少しだけだから」と思っていましたが気が付くと7年が経っていたのです。

 自宅では24時間体制で2、3人のヘルパーさんに入ってもらいました。しかし、さすがは我が母。一筋縄ではいきません。介護用の食べ物をいろいろ考えてもらいましたが、栄養はちゃんとしているけれど磨(す)り潰して形のなくなっているものを食べようとしません。老いたといってもいかにも老人や病人といった扱いを嫌がっていました。

 ヘルパーさんのお世話になると、大きな問題は介護費用です。この頃の私の仕事のモチベーションは母の介護代を稼がなければいけない、というものでした。

 幸いにして自宅で母が苦しむ姿を見ることは、ついぞありませんでした。その点は本当にありがたいことでした。そうはいっても、仕事がない時など、1時間ほど一緒に過ごすと母の部屋から出てドアを閉めた途端に、「はーっ」とため息をつきながら廊下へしゃがみ込みたくなる。それほど、気が張っていたのです。