「これは長丁場ですね」

 T班長と一緒に小倉北署に来た班員たちには、現場となった「片野マンション」などを、見に行ってもらっていたそうだ。

「まずはチャート図を作成しました。当時はまだ緒方が名乗ってないですからね。被害者は被疑者の女の家族として、夫婦、子供夫婦、その息子、娘という具合に作りました。それで、その日の午後8時ぐらいに中村一課長のところに行って、こういう状況ですから、明日から(小倉北署に)行きます、と説明したんです」

 中村一課長は「ああ、わかった」との返答だったが、T班長には、そのときに現場を見てきた班員であるM係長が口にしていた、「これは長丁場ですね」との言葉が耳に残っている。実際、T班の5名は、この日から1年以上を休み無しで捜査に当たることになる。「働き方改革」が言われるようになる、はるか前のことである。

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 捜査本部が置かれることになる小倉北署の署長は、T班長のよく知る人物だった。

「署長はKさんという人で、僕が(県警本部の)刑事総務課の係長でおったときの管理官だったんですよ。で、9日に挨拶に行くと、『お前、大丈夫か?』と言うので、『いやいや、大丈夫とは言っても、こっちは5人しかおらんのですよ。まあ、よろしくお願いします。運だけはありますから』と言ったのを憶えてます」

 T班長がそう口にしたのには理由があった。

「なんと言っても、すでに犯人は捕まっとるでしょう。そして共犯じゃないですか。今までの経験からしたら、どちらかが落ち(自供し)たら、相手も共倒れになりやすい。それに清美ちゃんがおる。彼女の証言があるし、事実関係証明書やら、電気を流したコードやらは、すでに押収されていましたからね」

 松永は被害者の弱みをにぎる為に、被害者自身がなんらかの違法行為に関与したことを告白する、「事実関係証明書」という書類を書かせていた。