捜査本部の部屋に入り切らない捜査員、多すぎて読めない捜査報告
「小倉北署にはもう部屋がなかったんですよ。だから10人くらい入れば一杯になる部屋でした。ただまあ、(取)調べ官とかは、すぐ取調べに行っちゃうでしょう。巡査はそこに入ってこないから、私と事務担当のM係長くらいなんですよ。私はMちゃんと呼んでるんですが、彼に丸投げでしたね。毎日、捜査報告が上がってくるんですけど、全部彼が読んで、チェックをしていました。まずそうしないと、多すぎて読めないんですよ。それから各種書類の作成も全部M係長がやっていました。あと、彼の補佐に小倉北署のO巡査がついていて、2人で書類の管理をやっていたので、私が『××関係の資料が欲しい』と頼むと、棚からそのバインダーを出して、渡してくれるようになっていました」
県警本部の捜査一課から来た特捜班員以外に、特捜のなかには小倉北署員が31名いたが、全員が一度に捜査本部の部屋に入ることができないため、毎朝、署内の道場の一角に集まれる者を集めて、いまはどういう状況であるかを説明し、どのように捜査を進めてほしいかということを伝えていたという。
「上からは、情報が洩れるからと、必要最低限のことしか言わないようにと言われていましたけど、ただもう目の前のことだけをやらされていたら、この事件がどんなものかっちゅうのがわからないじゃないですか。自分のなかで咀嚼して動いてもらうために、そこは捜査員を信用して、ある程度の情報は与えるようにしていました」
このようにして、捜査本部は動き始めたのだが、「死体無き殺人事件」の捜査が一筋縄でいかない現実に、すぐに直面することになる。
《この続き(連載第2回)は「週刊文春 電子版」で現在配信中。犯行現場から指紋が一切検出されなかった理由や、3万点を超える証拠品が押収された捜査の舞台裏について詳報している》
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(おのいっこう/1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。著書に『殺人犯との対話』『震災風俗嬢』『新版 家族喰い―尼崎連続変死事件の真相』『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』など。)
