血尿の原因を十数種類の精密検査で調べたところ診断は腎臓がんで、医師からは手術による右腎の摘出を勧められた。

「最初に診断を聞いた瞬間、心は不思議と平静でした。『そうか、がんだったか。ならばこれからどう生きるかだな』という気持ちで、冷静に受け止めている自分が不思議でした」

 医師は「もしこのまま放置していたら、4、5年後にはこぶし大の大きさになっていたかもしれない」と言った。そのとき同時に浮かんだのは「自分はなんてツイているんだ」という思いだったという。

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自宅前で隆子夫人、愛犬ミミと。「日本の顔」(2006年5月号)に登場した際の1枚。手術を受けたのはこの直前だった ©文藝春秋

突然、溢れ出た涙

 保阪さんが最大の「幸運」と捉えたのは、自分が血尿を一時的な体調の問題とは考えず、提示された十数種の検査を「3か月かけても、よし、ぜんぶやってやろうじゃないか」という前向きな気持ちで受け止めたことだった。

「私がすぐにそう思い決めたのは、この年齢になると、周囲にはこの『入り口』の部分で踏み留まれず、亡くなってしまった友人が何人もいたからです。病は入り口のところで逃げてはいけない。その最初の選択が人生を大きく変えてしまうのですから」

 だが、2006年1月12日の手術の直前のことだ。それまで平静だった保阪さんは、全く想像していなかった自身の感情と出会うことになるのである。

※この続きでは、「歴史を見る尺度は変わり始めた」と保阪正康さんが語っています。その理由とは——。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています(保阪正康「腎臓がん・前立腺がん 病は最初の選択が人生を大きく変えてしまう」)。

短期集中連載 がんで生まれ変わった10人 稲泉連(ノンフィクション作家)

 

大腸がん
「打てば忘れる。でも、消せない不安がある」
原口文仁(元阪神タイガース)

 

乳がん
「がん家系だからこそ『標準治療』のメッセージ」
梅宮アンナ(タレント)

 

胃がん・食道がん
「保釈直後の闘病が『あきらめない』の原点」
鈴木宗男(参議院議員)

 

膀胱がん
「病と向き合って竹下登の気持ちが分かった」
御厨貴(政治学者)

 

大腸がん・腎臓がん
「二度のがん、妻のがん死を経験した専門医の発見」
垣添忠生(日本対がん協会会長)

 

食道がん

「生存率が劣る治療法でも『これで治る』と思った」 

秋野暢子(俳優)

 

腎臓がん・前立腺がん
「病は最初の選択が人生を大きく変えてしまう」

保阪正康(昭和史研究家)

 

十二指腸乳頭部がん・膵臓がん
「臓器五つなくて元気なのは縁起いい、と仕事が増えた」

安藤忠雄(建築家)

 

血液がん

「大量のステロイドで万能感と底なしの鬱を行き来した」
花村萬月(作家)

 

小細胞肺がん

「三つ目の病院で医師への不信感が払拭できた」
落合恵子(作家)

出典元

文藝春秋

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