初の連載は「5話で打ち切り」に
ところが、記念すべき初連載は、5話で打ち切りになってしまう。これはさぞかしショックだったのでは……と思ったが、そうでもなかった。
「そういう現実は、アシスタント先でも見ていましたからね。それに、週刊連載のアシスタントをしながらの連載だったので、自分の連載がなくなってもちゃんと仕事は確保しているし、アシスタントを続けながらもっと勉強しようと気持ちを切り替えました」
連載デビュー作『インサイド・グラフィティー』は、思わぬメリットをもたらした。この作品を目にしたマンガ家たちから「けっこう上手い」と評価を得て、「手伝いに来て」とあちこちから声がかかるようになったのだ。
高校を出て上京した森川さんは、家賃2万5000円の風呂なしアパートで暮らしながら、『バリバリ伝説』『頭文字D』のしげの秀一さん、『スーパードクターK』の真船一雄さんなど、そうそうたるプロのもとに出向いた。
ついたあだ名は「ゴッドハンド」
アシスタントとしての学びはすべて自分の血肉になると考える森川さんは、あらゆる依頼に真剣、本気で向きあった。「手伝ってほしい」と連絡がくると、事前にどんな絵を求められているのかを確認。バイクや学校など先方が要望したものを描けるように、徹夜で練習した。マンガ家ごとに絵柄の雰囲気も違うから、現場ですぐに合わせられるように予習もする。
「学校の窓のサッシはどうなっているのかを知りたくて、建築の本を読んで練習していったこともあります。僕は経験も技術も足りないし、お金をいただくのだから、それが当たり前だと思っていました。新しいことを教わったら、帰って反復練習もしました」
サラリというが、森川さん自身もすぐに「自分みたいに予習、復習してくるアシスタントは少ないんだな」と気づいた。もともとそこで働いているアシスタントよりも、森川さんのほうがスムーズに仕事が進むのだ。
ここまで入念に準備してくるアシスタントは希少だ。すぐにマンガ家の間で評判が広がり、引っ張りだこになった。それも、締め切りに追い詰められたマンガ家たちの助っ人として声がかかるようになった。
「30軒ぐらいのスタジオに行きましたね。時間が足りないスタジオに行って、パッと終わらせるのが得意でした。普通なら3日かかるところ、僕が行って1日で終らせるようなことも多かったです」
ついたあだ名は、ゴッドハンド。どこに行っても「上手いね」と絶賛された。しかし、森川さん自身は「不器用」だという。
「僕は絵が上手くない。だから、ものすごい数の予習と反復練習をするんです。それで上手く描けるようになったとしても、器用ということじゃないですよね」
