1巻で数百万円の印税を得るも「ジャンプと比べたら夢がない」と感じた

 人気作品として、満を持して単行本の1巻が発売されたのは、連載開始からおよそ4カ月後の1990年2月。

「初版は16万部だったかな。担当編集者からは『喜べよ』と言われましたけど、僕は『これだけ1位を取ってもこんなもんなんだ、夢がないじゃん』と思っていました」

 当時のマンガ1冊は390円。マンガ家の印税が10%として、16万部発行されると624万円が振り込まれる計算だ。それでも「夢がない」と感じるのは、理由がある。森川さんによると、ライバル誌・週刊少年ジャンプの場合、当時、人気作品の単行本は100万部単位で発行していた。そうなると、1冊当たりの収入が1桁変わるのだ。

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 森川さんにとって嬉しい想定外だったのは、1巻が即日完売したこと。書店から講談社に連絡が入り、すぐに重版がかかった。そこから雪崩のように重版が続き、出版から4カ月後の6月には36刷りになっていた。

「その頃って、本屋に平積みっていう習慣がまだあまりなかったんです。でも、一歩の実績から平積みにしたら売れるんだとわかって、そこからですね、販売部の考え方が変わったのは。1巻が出た後に連載を始めた『カメレオン』(加瀬あつし)や『シュート!』(大島司)は、初版から何十万部と刷ってますよ。僕のおかげだぞって思っていました(笑)」

1巻は即日完売、そこからあれよあれよと重版が続いた ©石川啓次/文藝春秋

「1日におにぎり1個」の食生活が、「年収爆増」で変化

 1巻が売れたことで、一気に生活が楽になった。単行本は3カ月に1巻のペースで発売される。初版16万部として、3カ月に一度、624万円。『はじめの一歩』の人気は衰えることを知らず、何度も重版がかかる。連載を始めて2年目には年収が1億円を超えた。

 当時24、25歳。年収が1億円を超えた若者は、なににお金を使うのだろう? 森川さんが最初に挙げたのは、食生活。しかし、それは想像の斜め上をいく変化だった。