憧れの大先輩・ちばてつやとの思い出
森川さんにとっての頂点は、今も変わらずちばてつやさんだ。実は、『はじめの一歩』の連載前に初めて顔を合わせる機会があったという。
まだ21、22歳だった森川さんはその日、アシスタントをしていたマンガ家・真船一雄さん(『スーパードクターK』作者)の野球チームの一員として、石神井公園の野球場に来ていた。対戦相手が、ちばてつやさん率いる「WHITERS(ホワイターズ)」だった。
その日、森川さんはレフトの頭上を越える打球を放った。思い切り走れば三塁までいけそうだったのに、一塁で足を止めた。一塁の守備についていたのが、ちばてつやさんだった。
背後から「ナイスバッティング」という声が聞こえてきた。畏れ多くて振り返ることができなかった森川さんは、前を見たまま大きな声で「ありがとうございます!」と応えた。感動で震えていた。
「ちばさんから声をかけられたのは、あれが人生初でした。忘れられませんね」
ちばてつやさんと初めてしっかりと言葉を交わしたのは、それから20年以上経った2011年。『あしたのジョー』が実写映画化された際、週刊少年マガジン誌上での対談相手として抜擢されたのだ。緊張して迎えたその日のことを、森川さんはこう振り返る。
「絶対に横柄な態度を取らない、ちゃんとした方でした。この人を尊敬してきてよかったなと思いましたね。ちばさんの話をし始めると、2、3時間じゃ収まりません」
この対談をきっかけに、2人の距離が縮まったのは、その後の関係を見るとわかる。2020年、森川さんはちばてつやからの長年の誘いに応えて、漫画家協会に入会し、常務理事に就いている。漫画家協会がYouTubeチャンネルを始めた際には、森川さんがちばてつや会長のインタビュアーを務めた。