『ひつじ探偵団』

 今月取り上げるのは、いずれも事前のイメージを良い意味で覆してくれた3本だ。

 観る前は全く期待していなかったのが、いざフタを開けたらとんでもなく面白かった――というダークホース的な映画というのが年に何本かある。これも、まさにそんな作品。ダークホースというより、ダークシープだ。

『ひつじ探偵団』

 可愛らしい羊たちを前面に出したポスターや予告編のイメージからして、子ども向け、あるいは悪ふざけ方のコメディと思われる方もいるかもしれない。が、実はその正反対だった。かなり本格的なミステリー映画なのだ。英国ミステリーの定番をメタ的に使った作りになっているため、『名探偵ポワロ』をはじめとするアガサ・クリスティ原作などの海外ミステリードラマが好きな方にはたまらない内容になっている。

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 英国の片田舎で羊農場を営む牧場主(ヒュー・ジャックマン)が何者かに殺される。彼は陰で大発明をしており、その売却金で大きな財産を遺していた。遺産相続人をはじめ、容疑者は多くいる――。まさに、王道といえる展開だ。唯一違うのは、その犯人を解き明かしていくのが、彼の飼っていた羊たちだということ。

 一見すると荒唐無稽に思える。だが、羊は人間の言葉を理解でき(※人間は羊の言葉を理解できない)、そのことを知る牧場主が毎日のようにミステリー小説を羊たちに読み聞かせしているという基本設定を序盤に示しているため、ここに違和感なく入れる仕掛けになっている。聞かされた小説の内容から謎解きを話し合うことを毎晩の楽しみにしている羊たちの様が丁寧に描かれており、「犯人捜しをする羊たち」というキモになる設定を自然と受け入れられるのだ。

 また、本作の面白みはそうしたパロディ的な部分だけではない。個々の羊たちのキャラクター分けや、羊コミュニティ内での差別、さらにそれを超克していくドラマが、彼らの牧場主への想いと重なる形で展開。最終的には思わぬ感動が待ち受けている。

 美しい牧草の眺め、田舎町に蠢く怪しげな人間たち、そうした中で奮闘するチャーミングな羊たち。上質なエンターテインメントに仕上がっている。

『ひつじ探偵団』
監督:カイル・バルダ/出演:ヒュー・ジャックマン、エマ・トンプソン、ニコラス・ガリツィン、モリー・ゴードン、ホン・チャウ/2026年/アメリカ・イギリス/109分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/5月8日(金)よりロードショー