『スマッシング・マシーン』

 最後に紹介するのは、2000年前後に活躍した総合格闘家のマーク・ケアーをドウェイン・ジョンソンが演じた実録映画だ。ただ、筋肉スターが敵をなぎ倒す様を追うような作品ではない。

 この時期、アメリカの格闘技やプロレスの世界では過酷なバトルを乗り切るために、鎮痛剤の過剰摂取が蔓延していた。そのために依存症となり、心身に異変をきたす者も少なくなかった。ケアーもまた、そんな1人だった。本作が描くのは、依存症に苦しみながらもなんとかそれを乗り切ろうとするケアーの苦闘の姿。表での勇ましい活躍と、裏側での地獄の葛藤という光と陰を、見事に映し出している。

『スマッシング・マシーン』

 素晴らしいのはドウェイン・ジョンソンだ。特殊メイクと肉体改造で見た目を完全にケアーそっくりにしただけでなく、口調や格闘シーンの動きまで完全に再現。さらに、依存症で苦しむ場面では、壊れそうなほどにナイーブな一面を繊細な演技で表現。筋肉モリモリのアクションスターだけでなく、役者としても優れた能力を持っていることを証明してのけている。

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 考えてみると、ジョンソンがプロレスラー「ザ・ロック」としてトップスターになったキッカケは、類まれなマイクアピール能力だった。また、リング上での喜怒哀楽の表現も抜群。ベビーフェイス=ヒーローだけでなく、ヒール=悪役も完璧にやり切っていた。つまり、表現者としてのポテンシャルは超一流だったということだ。その才能の幅広さを、俳優としても示しているのだ。

 また、ケアーの恋人役のエミリー・ブラントもいい。彼が苦しみ抜いているのにもかかわらず、自分のことも構ってもらいたいとアピールしまくる――という、観客のヘイトを買いかねない損な役どころ。今の彼女の格や人気を考えると、「よくこの役を引き受けたな」と、その役者魂に感心してしまった。

『スマッシング・マシーン』
監督・脚本:ベニー・サフディ/出演:ドウェイン・ジョンソン、エミリー・ブラント、ライアン・ベイダー、バス・ルッテン、オレクサンドル・ウシク/2025 年/アメリカ/123 分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/©2025 Real Hero Rights LLC/5月15日(金)よりロードショー

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