「海なし県」に集中出店しているワケ

 この連鎖を支えているのが、独自の仕入れ体制だ。同社では新潟市場に7人、豊洲市場に6人、計13人のバイヤーが毎朝鮮度の良い魚を買い付けている。バイヤーを務めるのは、店舗で包丁の技と販売の経験を積み、管理職として実績を上げた精鋭社員だ。「今の時期は何が売れるか」「この値段ならどのくらいの販売数が見込めるか」——現場の感覚が体に染み込んでいるため、実態に即した仕入れを行えている。

 関東の各店舗は、豊洲市場で仕入れたものは朝一番に、新潟市場で仕入れたものは昼頃に到着する。日本海の魚が都内の店に届くまでは、最短9時間。同社のキャッチコピーである「日本海まるごとやってきた」を体現するため、店舗は必ず関越自動車道沿いに展開している。

 さて、現在店舗が集中しているのは、創業の地である新潟——ではなく埼玉県だ。「海なし県」は、美味しい魚を食べられる環境が整っている、とは言い難い。だからこそ、角上魚類は「新鮮な魚を届けること」に意義を感じている。

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毎日2つの市場から届く新鮮な魚介類が、店頭に並んでいる(プレスリリースより)

 余談だが、発泡スチロールの箱に魚を詰めて配送する方法は、創業者兼会長である栁下浩三氏が考案したものだ。かつて、魚を輸送する際は木箱にビニール袋を入れ、そこに氷水を満たして運んでいた。しかし、特注の発泡スチロールの箱を使ったところ、従来よりも鮮度が保たれ、築地で高値がついたという。今や、その知恵は業界全体に浸透している。

「規格が数ミリでも違うと別物扱いになる、ということで特許取得は断念したのですが……もし取れていたら、うちは資材屋さんだったかもしれませんね(笑)」(鶴見さん)

コロナ禍で売上構成に変化

 現在の売上構成比は、柱である寿司部門が約25%を占めている。これに刺身を含む鮮魚、惣菜の2部門を合わせると、売上全体の約63%に達する。興味深いのは、この比率がここ数年で大きく変わったことだ。以前は刺身などを含む鮮魚部門が売上を牽引していたが、コロナ禍を機に寿司が台頭するようになった。

近年は寿司へ、売上の主体が移り始めている(プレスリリースより)

「外食が制限された時期に、家でちょっといいものを食べようと、お店に来る人が増えました。若い客層が増えたのは、この時期ですね。一度来店してくださったお客様がリピーターになってくれた感覚があります。あのときは、死ぬほど忙しかったですね(笑)」(鶴見さん)

 後編では、魚しか売らない専門店がここまで支持されている背景と、一般的なスーパーが縮小させている「対面販売」にこだわる理由について、深掘りする。

次の記事に続く 誰が「スーパーの魚売り場」をつまらなくしたのか 角上魚類が考える「日本人サカナ離れ説」に潜む“ウソ”

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。