心の支えになった作家のことば
――戦う条件が整っていたとはいっても、検察は自分たちのストーリーを決めてしまっているし、日本の刑事裁判の有罪率の高さを考えると、もしかしたら有罪になってしまうという不安はありませんでしたか。
村木 そうなっても、ちゃんと立っていたい、と思いました。主任弁護人の弘中惇一郎弁護士には、ことあるごとに「村木さんはどうしたい?」と聞かれました。最初はそれが苦痛で、「先生が決めてくださいよ」と言いたくなるんだけど、何度も何度も聞かれる。そのうちに、「そうか、これは私の裁判だし、私の人生だよね」と思えるようになりました。
人任せにしていたら、負けた時には他人のせいにしたくなる。誰かのせいだと恨みながら人生を送るのは惨めで楽しくないな、と。だったら、結果はどうあれ、後の人生がまともになるよう、自分が後悔しないように戦おうと考えたんですね。そんな時に、サラ・パレツキーの本が差し入れられて、心に刺さる一節に出会うんです。
〈あなたが何をしてたって、あるいはあなたになんの罪もなくたって、生きてれば多くのことが降りかかってくるわ。(中略)だけど、それらの出来事をどういう形で人生の一部に加えるかは、あなたが自分で決めること〉(『サマータイム・ブルース』、山本やよい訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)
以前読んだことがある本でしたけど、その時には全然響かなかったのに、拘置所という環境の中で「これだ!」と思いました。おもしろいものですね。
一番大事にしていたのは、ちゃんと顔をあげていようっていうことでした。やっと保釈になった時に拘置所から車で出ると、マスコミの人が待ち受けていてカメラがいっぱい並んでいましたけど、「絶対に顔を上げていよう」と思いました。
裁判の途中でも、仮に有罪判決が出たらどうするか考えましたけど、「それでもちゃんと胸を張っていよう」と。それが、自分の中にある真実を大事にすることのような気がします。
