哲学史はトーナメント戦

深井 周さんのおっしゃる通り、欧米のエリートは歴史をよく勉強していると言われますが、僕もその通りだと思います。少なくとも日本人と比べれば、その勉強量と視野の広さは比較になりません。しかし、あえて指摘すると、それでさえもアジアに対する視点はまだまだ十分ではないと感じています。そこまで彼らに要求するのはやりすぎかもしれませんが、それは世界の諸問題として現れてきてるんじゃないかと思います。

 ただ、この原因は単なる勉強不足ではなく、欧米の勉強の仕方が偏重していることにあります。だからこそ、欧米エリートの姿勢を手本にしながらも、彼らをそのまま理想形として模倣すればいいわけではない。これからの時代、アジアを含む多様な原理で動く人間への理解を深めていくことは、欧米エリートにとっても、そして僕たち自身にとっても、避けては通れない課題だと思っています。

山口 本物の中華思想を持っているのは、実は中国よりもアメリカだと。

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深井 そう言えるかもしれないですね。逆に中国はアメリカのことを研究していると思います。アメリカ人って他国の言語を学ぶ人は多くないですよね。でも逆はたくさんいるわけじゃないですか。それはすごく影響してると思っています。

山口 わかっていないというのは、年号とか出来事とか形式知的な情報は知っていても、その国の人のものの見方、考え方までは理解ができていないということですよね。歴史を学ぶことは、「自分たちとは違う見方で世界を見ている人たちがいるんだ」ということを知る、つまり多様性の本質を理解することにつながりますよね。儒教の考え方にしたって、キリスト教とはまったく違いますからね。

深井 そういうことです。歴史を学ぶというのは、歴史年表を暗記していたり、たとえば「徳川家康のことにめっちゃ詳しい」ということではないんです。日本史だけではなく、できれば世界史、いろんな国や地域のことを知っておくことが重要なんですよね。

 複数の視点を獲得することが人文知だと冒頭で話しましたが、自分が正解だと信じてきたものが、時代やエリアや環境によってバンバン変わっていくということは、歴史的な視点を持たないとたぶんわからない。同じ組織のなかで長く働いていると、組織の従来の勝利条件や環境にフォーカスしがちだけど、歴史を勉強すると「勝利条件や正解ってすごく移ろいやすくて諸行無常のものだよ」っていうことがよくわかる。それを体感で知っている人と知らない人では、だいぶ差がつくと思っています。