いい意味での“ユルさ”がある

 各店舗とも「変わらぬ味」を求めるファンが多い。大久保さんにコロッケを頼むとその場で揚げてくれる。「親父に習っただけの作り方です」と話していたが、ピアニストの辻井伸行さんも子供の頃によく食べたそうだ。

「肉の大久保」のコロッケ。ほくほくしていて、気持ちまで癒やされる(豊島区)

 赤丸ベーカリーで人気なのはクリームパンだろう。尋智さんは「『オーソドックス』で『普通』の美味しさを目指しています。先代、先々代からうちのお客様で、子供さんやお孫さんまで食べてくれる。がっかりさせたくないのです。引っ越して、何十年ぶりに買いに来たという方もいます」と語る。

「変わらぬ味のために、変える」。赤丸尋智さん(豊島区、赤丸ベーカリー)
人気のクリームパン。しっとり、ふんわり、カスタードクリームがたっぷり。また食べたくなる(豊島区、赤丸ベーカリー)

「『変わらない味』のためには、変えていかなければなりません。世の中の味のベースは時代によって変化しますし、材料も変わります」。変わらないために変えるという斬新さ。なかなか奥が深い。

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 そんな話が気軽にできる店が多い。大久保さんもどんな調理法があるかまで教えてくれる。「美味しいと皆が幸せな気持ちになれるんです」。客と楽しそうに話をしている姿が印象的だった。

 末千江さんは「かといって、どの店もベタベタと暑苦しくはありません。そこは下町ではなくて、シティーなんです。会話をしながら買い物もできるし、さらっと買うだけもできる。ただ、『お帰りなさい』と言ってもらえそうなまちなんだと思います。一日じゅう神経を使って働いて、疲れた体でふらっと立ち寄った時に心地よい。いい意味での緩さがあるのかもしれません」と分析していた。

常連の女の子が、学校の課題で大好きなクリームパンの紹介を書いてくれた。大切に飾ってある(豊島区、赤丸ベーカリー)

「としま案内人 雑司ヶ谷」の会長、音羽智子さん(68)は「優しいまちなんでしょうね。優しくされると、優しい気持ちが残る。だから、皆が優しくなれるのだと思います」と語る。赤丸ベーカリーの尋智さんが「お客さんも優しい人ばかり」と話していたのを思い出した。