今まで我慢をしていたつもりだったのか

 父にしてみれば、原稿用紙のマス目を埋めるだけで苦しいのに、それに加えて義理のパーティ、会食、葬式結婚式、出版記念パーティのたぐい、気の進まぬ集いにどれほど我慢して、貴重な時間を費やしてきたことか。もはや70を超えたなら、今後はすべて「断然欠席」を貫いても文句は言われないだろうという決意表明らしい。

 が、聞いている側としては、父の真剣味が増せば増すほど正面を向いていられなくなり、とうとう私は俯いて唇を噛みしめた。隣の弟も俯いている。家族は皆、同じ気持ちだったはずだ。もしかして父は今まで我慢をしていたつもりだったのか。そうとわかった途端、吹き出しそうになったからである。

目覚めると、ひとりだと気づく 家族が過ごした最期の日々 (文春新書 1525)

阿川 佐和子 ,加賀 乙彦 ,小池 真理子 ,曽野 綾子 ,永田 和宏 ,眉村 卓 ,柳田 邦男 ,吉行 和子

文藝春秋

2026年4月17日 発売

次の記事に続く 「お優しかった印象しかありません」「どこがだ!?」亡くなって初めて見えた父・阿川弘之の“もう一つの顔”【阿川佐和子さんの思い出】