アメリカ、イスラエルによるイラン攻撃に端を発した世界的なエネルギー危機は日本経済を直撃している。BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏と、ポスト石油戦略研究所代表でエネルギーアナリストの大場紀章氏が語り合った。

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どこかで歪みが出てくる

 河野 日本は特殊な状況にあります。オイルショックを教訓に石油備蓄を増強していたことに加え、政府が緩和措置としてガソリン補助金を支給しており、短期的には政策によって、かなりショックが吸収されています。しかし長期的には、いいことばかりではなさそうです。

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 大場 ええ。ガソリン代はリットル170円前後に維持されていて、高市首相がホルムズ海峡以外からの代替輸入も念頭に、来年年明けまでの目途が立ったと発言するなど、日常生活に大きな影響はないというメッセージが発せられています。ただ実際には、政策によって、価格を無理矢理抑え込んでいるにすぎませんから、どこかで歪みが出てくることを憂慮しています。

ガソリンは補助金で価格を無理矢理抑え込んでいる ©時事通信社

 河野 おっしゃる通りです。普段通りの生活のままでは、長期化する場合、貿易収支や財政に大きな問題を抱え込むことになります。長期化するリスクも十分あり得るわけですから、誤った政策と評価せざるを得ません。もちろん困窮する家計の支援など、個別に対応すべき事案はありますが、所得に関係なく家計も企業も一律に対処するのは、単なる大盤振る舞いです。

 つまり、本来は価格が上がることで需要を抑制すべき局面にありますが、日本は抑制するどころか、逆に補助金で需要を刺激しています。結果的に貿易収支赤字が膨らみ、財政収支も悪化しますが、それが円安や長期金利上昇を招けば、事態は深刻化します。

河野龍太郎氏 ©文藝春秋

 大場 需要の抑制と聞くと、「消費を減らそう」と号令をかけて、車を運転する頻度を下げる、などをイメージしがちですが、本来の公平な抑制策は、しっかり価格に転嫁したうえで、経済のメカニズムの中で、全体の需要を抑制するものであるべきです。先日、運輸業者が国に対して軽油の価格を抑制してほしいと要望を出しましたが、本来は「輸送コストを適正な価格に転嫁させてほしい」という方が正しい。たとえば、Amazonなどの配送料に、サーチャージが乗る仕組みにすれば、燃料の価格に応じた事業ができます。それを、逆に補助金で乗り切ろうとする方針は間違っています。

大場紀章氏 ©文藝春秋

 河野 日本は社会の安定を非常に強く求めるので、受け入れるべき状況変化も避けますよね。樹木にたとえると、硬い樫の木。多少のことではびくともしませんが、それでも大きなショックを受ければポッキリ折れてしまいます。日本には、むしろしなやかに、風が吹いたら揺れる葦のような性質もほしいところです。