大場 私が懸念しているのは、世界が危機的なのに、政策によって偽りの平時を享受している日本の国民が「ホルムズ海峡が封鎖されても大丈夫」と錯覚することです。たとえば、トイレットペーパーが店頭から消えた第一次オイルショックの教訓は、国民の意識下で共有されていたと思います。でもこのままでは、今回は教訓すら得られません。
河野 同感です。思えば、コロナの時の我々の教訓は、長期的視座に立って、もう少し柔軟に対応することで、社会の持続性を確保することだったはずです。それなのに、反省を活かすことなく、また財政の力業で「変えない」ことを重視してしまっているのはとても残念です。
大場 こういった正常性バイアスが働いている分野は多いです。たとえば、原油から精製される重要な化学原料であるナフサの不足が不安視されていますが、長期的な問題点は別のところにあると思っていて。
河野 どういうことですか?
ナフサ不足の裏にある本当の問題
大場 実は、日本の石油化学業界は、ここ数年、中国が日本の10倍ほどまで供給力を高めていた影響で、中東危機が起こる前の段階で、稼働率が以前の7割程度まで落ち込んでいました。業界の再編期を迎えようとしていた最中、今回の中東危機が起こったことが競争力の問題を覆い隠しつつあります。つまり「ナフサが大事だ!」というスローガンのもとで、近視眼的に業界の構造を維持する力のほうが強く働いてしまっています。危機を経て変革が起こるどころか逆に延命され、結果的に日本の産業全体の生産性をさらに低下させていく可能性があるわけです。
河野 実に日本的な現象です。ただ、ナフサ由来の特定部材が、東アジアで構築されている高度なサプライチェーンの中で不足すると、他国の生産ラインに悪影響が及ぶリスクも無視できません。コロナ禍では一部の国のロックダウンが日本に大きなダメージをもたらしました。
※約7600字の全文は月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年6月号に掲載されています(河野龍太郎×大場紀章「石油危機『補助金頼みはもう限界』」)。
