「一般の人は治療を受けられないか…」

 2020年から23年ごろにかけ、北朝鮮でも新型コロナウイルスの感染が拡大した。かなり遅い時期になって中国製のワクチンを入手したが、それまでは「里」ごとに相互の往来を禁じたほか、発熱が確認された患者を強制的に隔離するくらいしか対策がなかった。北朝鮮には地域ごとに伝染病の管理や行政措置を担う衛生防疫所がある。郊外などに隔離病棟も備えている。ただ、入院費用や食費などは自己負担になるため、感染が疑われる市民たちはほとんどが自宅待機を選んだ。

 今回の憲法改正は、「無償医療の崩壊」という現実に合わせた措置とも言える。北朝鮮は2022年ごろから、全国の病院の名前から「人民」という名称を削除。住民に対する講習会などで、すべての国民が加入する健康保険制度の説明も始めていた模様だ。2024年ごろからは、国営の薬局を全国に展開し始めた。北朝鮮を逃れた元幹部は「市場をできる限り縮小し、経済の統制を目指す金正恩の意向を受けたものだろう」と指摘する。

 ただ、医療制度のシステム化、秩序の回復を目指してみても、薬品や資材不足を補えるわけではない。市民には社会保険料を十分に支払える余裕もない。このままでは、北朝鮮の医療で長年、問題視されてきた「結核」と「麻薬」の問題も解決できそうにない。

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 日本でも戦後すぐの時代には「亡国の病」と言われた結核だが、北朝鮮では抗結核薬や診療器具の不足などから、今でも「死に至る病」として恐れられている。人口約2500万人の北朝鮮だが、韓国の専門家は「結核感染が疑われる人は100万人に上ると言われる」と指摘する。2017年に北海道に、2019年に秋田県にそれぞれ漂着した北朝鮮木造船に乗っていた人々にも結核患者が含まれていた。

 2012年1月に韓国に逃れた崔政訓・韓国高麗大学公共政策研究所客員研究員によれば、結核用の薬価は500ドル以上になる。平壌に住む4人家族の半年分の生活費に相当する。崔氏は「一般の人は治療を受けられないか、多少体力が回復する1カ月程度の投薬でがまんするしかないのが実情だ」と語る。