これ自体は酒の席での与太話みたいなものでしたが、実際にエニックスの社員数はスクウェアの10分の1しかいないのに、FFと同等の売り上げがあるドラクエシリーズを抱えていたわけですから、やたらとコストパフォーマンスが高い会社だったのです。
つまり、人員は豊富だけど資金がないスクウェアと、人員は少ないけど資金があるエニックスが、お互いのないものを補うように合併した――と、ここまでが通説になっているわけですね。
大筋は、そういう理解でも間違っていないと思いますが、当時の状況をもう少し細かく分析すると、資金繰りとはまた別の側面も見えてきます。
エニックスの悩み
確かに映画『ファイナルファンタジー』の影響で、スクウェアは一時経営状態が悪化しました。
ただ、合併時に社長だった和田洋一(*2)さんは、野村證券出身のファイナンスにかなり強いタイプの経営者でもあり、スクエニ合併前の2003年期には創業以来最高益をだすまでに経営状態を回復させているのです。
*2 愛知県出身。野村證券をへてスクウェアに入社、2003年にスクウェアエニックス代表取締役社長に就任。「FF14プロデューサーレターLIVE」出演時にハウジング関連資料を持ってきたことから「ハウジングおじさん」と呼ばれた。現在はマイネット社外取締役。
なので、このときの数字だけを見ると、スクウェアは必ずしも合併をせずとも、そのまま単独で存続することもできたのではないかと思えます。単に資金繰りのためだけに合併したというと、ちょっと一面的かもしれません。
僕はむしろ2社の合併は、それ以降の成長戦略上のメリットを見据えた、もっとアグレッシブなものだったと捉えています。
では、その成長戦略のメリットは何だったのでしょうか?
それは合併前にエニックスとスクウェアがそれぞれに抱えていた「異なる悩み」を理解することで見えてきます。
まず、エニックス側の悩みは「社内に開発ノウハウが蓄積していかない」というものでした。
これまでにも説明してきたとおり、エニックスは、自社内に開発チームを抱えず、すべてのゲームを外注開発で作るという特殊な開発体制です。この方式のメリットは、そのとき作りたい企画やゲームのジャンルごとに最適なスタッフを選び、チームを編成できるというものです。
ドラクエシリーズにおける、キャラクターデザイン鳥山明、音楽すぎやまこういち、シナリオ堀井雄二、開発チュンソフトというような座組は、まさにそのメリットを最大限に活かしたものといえるでしょう。
