芥川龍之介『蜜柑』が教えてくれたこと

『ReHacQ−リハック−』より

坂井 私、出身が神奈川県横須賀市の田浦なんですが、田浦には芥川龍之介の『蜜柑(みかん)』という小説の舞台になった公園があるんです。そこに先日、両親と行ったんですよ。

高橋 『蜜柑』ってどういう話なんですか?

坂井 主人公が、横須賀駅から汽車(今で言うグリーン車)に乗っていた時のことです。彼はちょっと陰鬱な気分で乗っていたんですが、そこにみすぼらしい格好の少女がドタドタと入ってきます。「なんだこいつ」と見ていると、汽車がトンネルに入った瞬間に、その少女が窓を開けようとするんです。「煙が入ってくるのになぜ開けるんだ」と思っていると、トンネルを抜けた先で3人の子どもたちが手を振っている。すると少女は、開けた窓から持っていたミカンをその子どもたちに向かって投げる。

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高橋 おお。

坂井 実はその少女は、これから奉公に行くところで、見送りに来てくれた弟たちに報いるために、わざわざ窓を開けてミカンを投げたんです。それを見て主人公は「一切を了解した」という話。

 この話はすごく大事だと思っていて、僕も例えば自分の父親に対して「なんでこんなことをするの?」と感じることもあるのですが、他人のぎこちなさや意味のわからない行動の裏には、その人が守りたいものや思いやりが隠されているということを忘れてはいけないと思っています。

高橋 素晴らしいじゃないですか。

この本は怒りながら書いた“癇癪本”

『ReHacQ−リハック−』より

坂井 この本は理論を多く扱っていますが、理論についての本ではありません。理論を用いるためには相手の背景に対する想像力や愛がないと本来は意味がないという思いを込めています。

高橋 「クソが!!」と思った時に、クソだと思った相手のことも考えないといけない。辛いなぁ(笑)。でも考えないとダメですよね。

坂井 ちなみにこの本は僕が「クソが!!」と思っていた時に書いた本なんですよ。「なんでこの人はこんな意地悪なことを言うんだろう」と思うことが色々あるのですが、腹が立って相手の背景構造を調べるうちに、「こういう理論があるんだな」と分かると、怒りが自分の中で安らいでいく。だから、癇癪を起こしながら書いた本ですね。“癇癪本”です(笑)。

高橋 めっちゃ面白そうじゃないですか(笑)。

理不尽仕事論 「クソが!!」と思った時に読む本

坂井 風太,ぐんぴぃ

文藝春秋

2026年4月10日 発売

次の記事に続く 「この会社で耐えても意味ないな」“本当に嫌な異動”の対処法&大手企業を辞める理由「自分が参加しているレースのトップを想像して…」