#で金曜ロードショーを追いながら

――今回、人と人とのあたたかな交流などももちろん描かれるのですが、これまでの原田さんの作品にはあまりなかったような人間の後ろ暗い部分も描かれますね。

 例えば、4人の生意気盛りの子どもたちを一人で育てるシングルマザーの花絵。訪問介護の仕事でへとへとになって帰っても、子どもたちは労いどころか「おかえりなさい」すら言わず、「ご飯、まだ~?」とか「今日も揚げ物?」と心無い言葉をぶつけてくる……。ある日、とうとう怒りを爆発させてしまった花絵はXを開き、作中作のドラマ名を検索してみんなの感想をひたすら追うんですよね。特に、強烈な毒親というキャラクターへの罵倒の言葉を検索する手が止まらなくなる。

原田:よくない形かもしれませんが、小説やドラマなどフィクションの中で嫌な人間や悲惨な事件を読んだり観たりすることで、自分の中の何かを消化することはあると思うんです。

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 今回も現実の誰かを叩くのではなく、ドラマの中で作り込まれた嫌なキャラクターを「本当に嫌なやつだね」と言い合ってちょっとすっきりする。人間の中にはどうしたって存在する部分なのかなと思っています。

――作品のタイトルにもあるように、ドラマの題名にハッシュタグをつけ、感想をポストしながら観ることも増えてきましたね。配信の時代に、バラバラの場所で同じものを一斉に観るという新たな楽しみ方に感じます。

原田:私自身、Xで検索して自分の小説の感想を読んだりすることはあるのですが、普段は何かを検索するときに#を付けることはあまりなくて。ただ、「金曜ロードショー」で自分の好きな映画が放映されると、それを観ながら#で自分でも感想を書きこんだりもするし、ほかの人の感想や考察を見ながら映画を観るのは一つの娯楽として楽しいんですよね。来週の金曜日はジブリをやるんだとなると、楽しみにさえするというか。

 #ならではの新鮮な楽しさがあって、新しいテレビの見方として今後も続いていったらいいなと思います。

――原田さんにとって、「台所」とはどのような場所でしょうか?

原田:家があって、そこに家族で住んでいた場合、おのずと各自の“場所”というものができると思うんです。私自身は料理することも食べることも好きで、台所を肯定的に捉えているので、「丸ごと全部私のもの」という感覚があります。だから、家族が何か持ち込もうとしたときに私がちゃんと盾にならなくちゃ、と(笑)。

――入国審査のようなものがあるんですね(笑)。

原田:そうなんですよ。意外と厳しい審査官なんです(笑)。家族とスーパーに行って、今の冷蔵庫には必要がないものをぽんぽん買おうとされると嫌なので、一人で行くことが多いですね。

 そういう意味では、台所は自分の意思をきちんと貫ける場所でもあるのかもしれません。

#台所のあるところ

原田 ひ香

文藝春秋

2026年5月13日 発売

最初から記事を読む 「夜中に冷蔵庫に頭を突っ込んでいると後ろから……」原田ひ香のちょっとホラーな“冷蔵庫愛”が生んだ小説