内弟子生活(恵美子の記憶)
一緒に暮らしたらいけなかったんだって、何度も思いました。毎日、どうしてと思うことばかりで……。でも、あの頃の山崎君を知っているのは私だけだから、いまは宝物のような思い出かもしれない(妻・恵美子)
山崎を迎えて4人での“新婚生活”は、恵美子が想像したようなものではなかった。台所に立つと、背中に山崎の視線を感じる。料理に調味料を少し入れた途端に、「いま、塩を入れましたね?」と声が飛ぶ。(あーまたか)と思う。山崎は鼻炎を患っているので味付けにうるさく、恵美子は使う材料に注意していた。「ほんのちょっとしか入れてないわよ」と言っても、「僕は少しでもダメなんですよ」と譲らない。料理用アルコールを入れようとすれば「僕、アルコールはダメなんで」と釘をさす。食事だけじゃない。日常生活でも、何かあれば「広島では」と比較する。森が時々苛立って「ここは広島やない」と叱った。
部屋では、山崎はいつも寝転がって詰将棋を解いていた。鼻をかむと、使ったティッシュをポイと放り投げる。恵美子が畳の上にいくつも転がっているのを見かねてゴミ箱に捨てるが、またすぐにポイ。周りのことなど、まるで気にしない。
部屋は山崎と幸士が一緒だった。六畳一間に机とベッドを置けば、わずかなスペースしか空かない。いまにすれば、二人ともよく我慢していたと思う。時々、部屋から「えーん」と幸士の泣き声がする。恵美子が「どうしたの?」と見に行くと、山崎がすかさず言う。
「僕が悪いんじゃないですよ。幸士くんのほうが先に叩いてきたんですから」
少しでも楽しい思い出がほしいと、夏に和歌山の友ヶ島に4人で旅行に行ったことがある。恵美子は山崎と幸士にお揃いの襟付きのシャツを着せた。でも山崎はそれをすごく嫌がっていた。歩くのも一人だけ先に行ってしまう。幸士が「山崎くーん」と甘えた声を出しても、振り向かない。些細なことで口喧嘩ばかりしていて、ちっとも兄弟らしくは見えなかった。
山崎が楽しそうにしていた記憶は、ほとんどない。覚えていることといえば、広島で姉と観た映画の話をしたときのことだ。「『ホームアローン』て、すごく面白いんですよ」。映画は、家族が出かけ一人残された男児がパニックに陥り、そこに泥棒がやってきて大騒動になるストーリー。表情を輝かせる山崎に、広島の家族への想いを感じた。



