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山崎の不安
昼前になって山崎が「電車が動いたから、いまなら様子を見に行けます」という。市内から駆けつけた恵美子の父親も一緒に3人で船越のアパートへ向かう。2階建てのアパートは、1階が完全に潰れて、漏れ出したガスの匂いが周辺に漂っていた。壊れた建物を心配そうに見つめる人たちがいる。恵美子の父親がアパートの屋根に上がり、必死で船越の名前を呼ぶが返答はない。レスキュー隊の人たちが「危ないですから下がってください!」と叫ぶ。山崎はその様子を見ながら、早くその場を立ち去りたかった。船越の安否を心配する気持ちはあったはずだが、被災した建物が今にも倒れてきそうで怖かった。
マンションの前の公衆電話には、身内や知人の安否を確認したい人たちが長蛇の列を作っていた。山崎はその列に並び、順番がきても電話が繋がらずにまた並び直すことを繰り返した。やっと繋がった先は、大阪の将棋連盟だった。
「明日の奨励会の対局は行われますか?」
恵美子は山崎が何度も並んでいるのが、連盟に連絡を取るためだと気づいていた。電気も水道も止まり、真冬の寒さの中で誰もが不安な夜を迎えようとしていた。その中で、必死になって奨励会の開催を気にする山崎の姿に、悔しさとも苛立ちともいえない感情を覚えた。
「私たち家族とも、それくらい真剣に向きあってくれたらいいのに。こんなときでも、自分のことだけなんだ……」
そう思うと虚しくなった。



