主人公の“推し”=カール・セーガンとは何者か

村井 作中で主人公の佐那が、天文学者のカール・セーガンを“推し”として語るのが印象的でした。お二人にとっても思い入れのある人物かと思います。山崎さん、カール・セーガンとはどういう人物なのか解説いただけますか。

山崎 カール・セーガンさんはアメリカの天文物理学者で、私が宇宙に興味を持ったきっかけの一つが、彼が関わった探査機「ボイジャー」です。ボイジャーはゴールデン・レコード(地球外知的生命体や未来の人類に向けた「地球からのメッセージ」)を搭載して探査に向かい、木星や土星のすごくきれいな写真を送ってきたんです。すごいなと思ったのですが、そのプロジェクトをリードしていたのがカール・セーガンです。

山崎 カール・セーガンがよく言っていたのは、「もともと私たちの体も地球もみんな星の欠片、宇宙の欠片でできているんだ」ということでした。その言葉に子どものときにすごく感動したんです。作中(『コズミック・ガール』)に彼の著書『コスモス』が出てきて、「(私と)一緒だ!」と思ってびっくりしました。私にとっても思い入れのある“推し”ですね。彼の一生を描いた絵本『星の子ども』の翻訳もしました。

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村井 伊与原さんが今回、カール・セーガンを登場させたのはどういう意図がありますか。

伊与原 僕も山崎さんと全く一緒です。小学生の頃にテレビ番組の『コスモス』を父親と一緒に見て天体に興味を持ちました。大人になってから彼の著作を読むと、小説にも書いたんですが、「遠く離れたボイジャーから撮った地球は本当にちっぽけな青い点(ペイル・ブルー・ドット)なんだ」と。

 その写真を撮ることは彼のアイデアだったそうですが、地球はちっぽけなんだと認識することの大事さを彼は訴えていました。人間中心主義からもっと俯瞰して、私たちはこんなちっぽけな星に住んでいるちっぽけな存在なんだから、争うのは馬鹿げているとか、そういうことを考える材料を提供してくれた科学者として、僕も大好きですね。

山崎 彼はすごくソフトなイメージで、一人一人に語りかけてくれるような雰囲気を持っていました。私たちも宇宙の一部なんだということを感じさせてくれたのがすごくうれしくて。2010年に国際宇宙ステーションに行ったとき、無重力で体が浮かんでいると、不思議と「懐かしい」感じがしたんです。「宇宙って故郷なのかもしれないな」なんて思いました。

1990年にボイジャーから撮影された「ペイル・ブルー・ドット」 NASA/JPL-Caltech

廃棄タマネギでロケットを飛ばす? 高校生のユニークな発想

村井 今回の作品のテーマはロケットですが、作中では廃棄食材品を使ったロケットを飛ばすという着想がありました。このアイデアはどこから得たのでしょうか。

伊与原 これはもともと、兵庫県立洲本高校の科学技術部が長年取り組んできた研究を参考にしました。彼らはペットボトルを使ったハイブリッドロケットを開発していたのですが、既製の燃料は高価だったんです。もっと安いもので飛ばせないかと考えていたところ、名産のタマネギがたくさん廃棄されている淡路島の現状を見て、「これで飛ばせるんじゃないか」と思ったのが原点だったようです。廃棄食材から糖やでんぷんを抽出して燃料にできたら面白いんじゃないか、と。その話を聞いて、高校生らしいし、環境問題にもつながる面白い取り組みだなと思い、小説のモチーフにさせてもらいました。

山崎 本当に環境にもいいですし、地域に根ざしているところもあって、説得力を感じました。