「この世に永遠のものはない」

チュウ 私自身の人生観として、人間の「一生」というのはあまりにも短いものだという思いが根底にあります。人間は生涯、様々な苦しみや楽しみを経験しますが、自分が年齢を重ねて過去を振り返ってみたとき、その一つひとつ、苦しみでさえも、実はそれほど重要なものではないのではないか、と思えてくるのです。

 こうした人生観を一つの形として表したいと考え、この映画を制作しました。私自身は「自分はどこにも根っ子のない人間だ」という感覚を幼い頃からずっと抱えて生きています。現在は結婚もしていますし、子供も3人いるので、周りの人たちからは「あなたは何でも手に入れている、満たされた人間じゃないか」と言われますし、「それなのになぜ、こんなにも閉塞した暗い映画を作ったのか」と聞かれることもよくあります。

チュウ・ジュンタン監督 ©文藝春秋

 それは、幼いころに「この世に永遠のものはない」と気づいてしまったため、家族や子供という、自分にとって大切なものが増えてくるほど、逆にそれをいつか失ってしまうのではないかという恐怖が、自分の中で膨れ上がっているのです。本作の主人公の男性が抱えている、物を失うことへの怯えや、身動きの取れない閉塞感には、私自身のそうしたきわめてパーソナルな人生の影が非常にたくさん投影されているのです。

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リム・カーワイ監督(左)とチュウ・ジュンタン監督 ©台湾映画上映会2026

エンディングに『君といつまでも』のメロディが

 観客からは、映画のエンディングに加山雄三の『君といつまでも』のメロディが流れたことについて、その理由を尋ねる質問がでた。

チュウ 作品の中に出てくるいくつかの古い歌は、すべて私自身が自分で選んだものです。最後に出てくる歌は、日本で非常に有名な曲であると聞いていますが、映画で使ったのは姚蘇蓉(ヤオ・スーロン)が歌う台湾版です。私が古い歌を選んで使用したのは、それぞれの歌の歌詞が持つ意味が、言葉を発しない登場人物たちの内面を代弁するモノローグとして機能しているからです。

 特に最後の曲に関して言えば、この曲の台湾のタイトルは「夕陽西沈」というものですが、その夕陽というイメージが、この映画の結末の空気感に最もふさわしいのではないかと感じました。脚本を執筆している時に、たまたまこの曲のメロディが頭の中にふっと浮かび上がってきたのです。

リム 私もマレーシアでこの「夕陽西沈」を小さい頃から耳にして育ってきました。この曲を歌っている姚蘇蓉さんは、1970年代に一世を風靡した台湾を代表する非常に有名なポップソングの歌手で、当時は東南アジア全体でもものすごく流行したんですね。

リム・カーワイ監督 ©文藝春秋