この時、ハイポは大幅な増員をしています。真珠湾攻撃で大破着底した戦艦カリフォルニアの軍楽隊全員が転属してきたからです。災い転じて福となすではありませんが、彼らの活躍が日本の暗号を破ります。
ハイポの副局長で暗号解読主任だったトーマス・ダイヤーなどは2日も3日も寝ないで働いて、ついにはベンゼドリンという覚醒剤の一種を使って眠気を覚ましていたといいます。
こうしたとんでもない努力を重ねて、ミッドウェイ作戦の概要を把握したのです。
ただし、この問題を考えるときに重要なのは、アメリカ側がMI作戦計画そのものを入手したわけではないことです。彼らは、傍受した無線の断片的な情報をつなぎあわせ、分析し、ミッドウェイ作戦の全容、時期や作戦海面、参加兵力までも、ほぼ完全につきとめるという偉業をやってのけた。
近年、日本でもインテリジェンスということがかまびすしくいわれるようになっております。しかし、この例からもわかる通りで、インテリジェンスの核心は、情報収集ではなく、情報分析にあるのだということを強調しておきたいですね。
連合艦隊には情報参謀がいない
一方、日本の連合艦隊にはそもそもレイトンのような情報参謀がいませんでした。通信参謀がそれらしきことをやりますが、情報分析の専門家を置いていないのです。我々はよく黒島先任参謀とか渡辺戦務参謀などと呼びますが、これも正式なものではなく、辞令には単に「連合艦隊参謀を命ず」とあるだけです。それを司令部の中で、「航空参謀」とか「航海参謀」などと役割を割り振っているだけですが、いずれにせよ情報参謀というのはいません。
それぐらい、日本海軍は情報を軽視していました。
暗号は一定の期間が過ぎたら、新しいものに更新しなければ、いずれ解読されてしまいます。日本海軍も昭和17年の4月1日と5月1日に暗号書の更新を予定していました。しかし、南方作戦の成功で戦線が急拡大したため、暗号書の配布、回収が困難になったという理由で、更新は5月28日まで延期されます。これは怠慢としかいいようがありません。
ハイポがわざとミッドウェイ島の基地から「海水濾過装置の故障で飲料水不足」という電文を送信したところ、日本側は暗号で「AFは真水不足」と軍令部に送信した。それで、AFがミッドウェイ島を示すことが分かったというのは有名な話ですが、これは5月19日ごろのこととされています。予定通り暗号書を更新していれば、ミッドウェイ作戦の詳細までつかまれることはなかったのです。