「自室に大量の睡眠薬」「病名は⋯」職場から消えた女性研修医の【衝撃のその後】

『精神科医おどおど日記』より #6

駒木 爽

 精神科では朝は8時に出勤して17時には退勤。残業はほとんどなく、時間外の呼び出しもまずない。完全な週休2日制で休日出勤もなし。外科時代に6時~22時、1年の362日出勤をしていたころとは雲泥の差である。これまで業務終了後は帰って寝るだけの時間しかなかったのが、18時には家に着けてしまう。最初は仕事の終わりが早すぎて、そわそわと不安になったくらいだ。

 そして、K病院の精神科にはゆったりとしたムードが漂っている。精神科の患者は身体疾患の患者と異なり、入院期間が長い。平均3カ月ほどの入院が必要で、外科のように数週間で退院ということは少ない。看護師にも穏やかな人が多く、外科病棟の殺伐とした空気はここにはない。

「メスを置いた自分」への後悔

 目の回る忙しさがなくなり、時間的な余裕が生まれたことで、逆に外科への未練がつのるようになった。ここには、止まらない出血も、張り詰めた緊張感で握るメスもない。ただ、患者の淀んだ独白を聞き、終わりのない泥沼に付き添うような時間がある。手術が好きだった分、「メスを置いた自分」への後悔が大きかった。

ADVERTISEMENT

 精神科医としての成長が目に見えにくいというのも一因だった。外科では「Aという手術ができるようになった」「1時間でB手術を終えることができた」といったわかりやすい指標があり、能力の向上を実感できる。

 一方、精神科では「自分は本当に前に進めているのか?」という不安が湧き、自信が持ちにくい。

「踏ん張れなかったのは自分の甘さのせいだ」

 口には出さなかったが、心の中では事あるごとに外科時代の思い出が湧きあがった。あのころを懐かしく感じるたびに「踏ん張れなかったのは自分の甘さのせいだ」と忸怩たる気持ちになった。