「なんですか、藪から棒に」
――今、季節は何ですか?
調査員は質問を変えた。
「施設?」
反射的に問い返す父。
――しせつ、じゃなくて、きせつです。春、夏、秋、冬のうち、どれですか?
父は「う~ん」と唸り、こう答えた。
「それは別にどうってことないです」
これも「取り繕い反応」のようだが、私も訊かれた瞬間、「あれっ、今、いつだっけ?」と思った。地球温暖化の影響か、最近は季節感が定かではなく、季節は「別にどうってことない」のである。
――それでは、私がさっき言った3つの言葉を思い出してください。
唐突に切り出す調査員。面接の冒頭で彼女は「あとで訊きますから、覚えておいてくださいね」と3つの言葉を言っていた。確か「おでこ」と「ペン」ともうひとつ何かだった。
「なんですか、藪から棒に」
言い返す父。
――いや、最初に私は「覚えておいてください」と3つの言葉を言いましたよね。それを言ってみてください。
「そういうことは、前の日に言っておいてもらわないと。いきなり言われても困っちゃうじゃないですか」
――いや、ですから……。
「物事には段取りってもんがありますからね。いついつにこうしますよ、と言われて、それじゃ、いついつまでにと段取りを組むわけですよ。これこれこうしたいんだけど、どうですかね、それじゃこうしたらどうかね、とかああだこうだ言って取りかかるけど、それだって土壇場になってひっくり返ることだってある。あるよね、お兄ちゃん」
父は取り繕いまくり、最後に私に向かって同意を求めた。これは精神医学界で「頭部振り返り現象」と呼ばれている。問診中に家族に助けを求める現象で、取り繕い反応と頭部振り返り現象が確認されると「認知症」が確定するらしい。
かくして15分ほどで面接調査は終了した。帰り際に調査員に「父は認知症なんでしょうか?」とたずねると「大丈夫です。すぐわかりました」と太鼓判を押され、約1カ月後に「要介護3(5段階中)」の認定をいただいたのであった。