一線を越えた日
6月3日。空はからりと晴れていたが、私の心は鉛色のままだった。この日、私は一線を越えた。戻れない橋を渡ったのだ。
【LINEメッセージ抜粋:2024年6月3日】
▼ロイ(インテリヤクザ)09:36
「おはようございます。今日は、これまでのお金を、午後2時頃に送金したいと考えています。少し手元に残しますので、200万円を振り込みます。愛子さん、送金先の口座を教えてください」
▼Aiko💗✨ 09:57
「大丈夫ですよ!兄さんは銀行に行く前に愛子に連絡しますよ。愛子はその時に兄さんに送金口座を教えます💕💕」
▼Aiko💗✨ 13:20
「銀行名:あさひネット銀行
支店名:オリーブ支店(店番007)
取引種類:普通口座
口座番号:0809631
口座名義(カナ):ヒイラギ タツオ」
▼ロイ(インテリヤクザ)13:53
「残念ながら、100万円しか送金できませんでした」
「銀行に行く前に愛子に連絡しますよ」
なぜ、この言葉に潜むおかしさに気づかなかったのか。送金の直前まで振込先を教えない。相手に調べさせない、考えさせないための、詐欺師の常套手段だ。そんなことは、知識として知っていたはずだ。それなのに、私の頭はまったく働かなかった。
いや、違う。私は気づかないふりをしていたのだ。この甘い夢が、偽りである可能性から目をそらしていた。もしこれが嘘だったら、私の未来はまた、あの退屈で色のない日々に逆戻りだ。それだけは、嫌だった。その恐怖が、すべての警報をかき消していた。
銀行のATMの前に立ち、私は指定された口座情報を打ち込んだ。