今年2月に行われたミラノ・コルティナ五輪。2025-26シーズン限りの引退を表明していた女子フィギュアスケートの坂本花織は、惜しくも銀メダルに終わった。しかし、そのひと月後、最後の演技で4年ぶりに自己ベストを更新し、日本人歴代最多となる4度目の世界選手権優勝を飾った。

現役ラストの世界選手権で有終の金メダル ©時事通信社

 5月の引退会見で、最も印象に残っている試合として、初めて世界王者となった2022年の世界選手権と、この最後の世界選手権を挙げた坂本。月刊「文藝春秋」8月号(7月10日発売)では、坂本が”最高の花道”に至る過程で何があったのかをスポーツライターの野口美惠氏が、盟友やトレーナーへの取材により綴っている。

切磋琢磨したライバルが感じた「嫌な予感」

 同じく25-26シーズンで現役を退いた、同学年の樋口新葉は、世界選手権の演技を「かおちゃんが目指していたスケートでした」と振り返る。二人は小学生の頃から切磋琢磨したライバルであり、長年励まし合い、支え合いながら現役生活を全うした親友である。22年の北京五輪では、ともに団体の銀メダルに貢献した。

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 実は、ミラノ・コルティナ五輪で坂本がショートプログラムを2位で終えたとき、樋口新葉は、その演技を見届けながら「嫌な予感がした」という。

「いつもの試合なら私が隣にいて、頑張ろうねって言い合って試合に臨む。でもオリンピックって本当に気を張る場所だし、かおちゃんは不安を出せない人。それでフリーの前に『見守ってるからね』って連絡をしました」

 坂本からは「ありがとう、頑張る」と返事があった。だが、樋口の懸念は的中する。中盤のミスが響いてわずか1.89点差、頂点に届かなかった。樋口は、最後の五輪を終えた坂本を労うため、電話をかけている。

五輪では涙 ©時事通信社

「一番悔しいのは本人だし、私も悔しかったけれど、五輪の2位で悔しがれるのは、本当にすごいことです。まずは『おめでとう』を伝えたかった。でも、かおちゃんが泣き出してしまって……。『悔しかったよね。でも、やれるだけのことはやったよね』と二人で泣きました」