「もう長くないから、あんたと旅行に行きたい」と言ったのに
フィンランドでは、昼間にトナカイの群れを見て、「かわいいね」なんて言ってたのに、夜はトナカイのステーキが食卓に出てくる。
「ちょっと、さっき『かわいい』って言ってたじゃない」と言ったら、「馬鹿言ってんじゃないわよ。ここでしか食べられないじゃない」と笑う。そういう人。感傷よりも現実。
ダイアナ妃が亡くなった後には、「現場を見に行こう」「彼女が最後に食事をしたリッツのレストランでご飯を食べよう」と言って、本当に行った。「何でそんなことを」と周りは言うけれど、「歴史ってね、自分の足で触っておきたいのよ」と涼しい顔。好奇心の塊だった。
「私はもう長くないから、一緒に船に乗ろうよ。あんたと最後に旅行に行きたい」と言われて、主人を置いてタヒチのクルーズに行ったのは、かなり前。だからその後ずっと、「うそつき。あんた、あれから何年経ってると思ってるのよ」と、しょっちゅう文句を言っていた。
それでも、2019年年末からのニューイヤークルーズで行ったグアム、サイパンが、本当に最後の旅になってしまった。
お正月も船で過ごして、おせち料理も食べて。帰国したあとに、新型コロナのダイヤモンド・プリンセス号のニュースが出たのよね。
テレビを見ながらママが、「私だったら、閉じ込められるなんて耐えられないわ。泳げるんだから、海に飛び込んででも家に帰る」と本気で言っていた。あの人なら、本当にやりかねないから怖いのよ。
「一流になんかなっちゃダメよ」
ママは仕事では「権力には屈さない」が信条。どれだけ長いシリーズでも契約料をもらわない。「降板する権利を持っておきたい」という理由で、1本1本の脚本料だけ。
相手がどれだけ偉くても、気に入らないことがあれば本を渡さない。そうやって、自分の自由だけは絶対に守っていた。
「ピン子、一流になんかなっちゃダメよ」とも、よく言われた。
「一流は追われる立場。二流は常に上を見て、追い続ければいい。あんたも私も二流でいいの」
あれだけの実績があるのに、「他の作家は一流だけど、私は二流でいいの」と笑う。
あの感覚は、今の若い人たちにも知ってほしいと思うわ。
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