恥ずかしい

 私はそれを繰り返すことしかできなかった。ガチャン、と乱暴に電話が切られた。砕け散ったのは、受話器だけではなかった。長年かけて築いてきた友情そのものだった。

 人は、自分が理解できないものを恐れ、遠ざける。「私なら、絶対に騙されない」そう信じたいがために、騙された人間を「愚かだ」と断罪し、安心する。

 そしてその風潮は、「自己責任」という重たい鎖となって、被害者の心に絡みつく。声を上げさせず、孤立させ、闇に葬る。

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 それは、詐欺師が仕掛けた最後の罠であり、社会がその片棒を担いでいる構図だった。

 世間から投げつけられる石と、友から向けられた氷の視線。それらは私を、見えない独房へと閉じ込めた。

 窓のない暗闇。話し相手は、後悔と自己嫌悪だけだった。

 電話が怖い。人と会うのが苦痛だ。カーテンを閉め切り、息を殺して一日を過ごす。

 恥ずかしい。ただ、その一言に尽きる。「恥」という感情は、内側から静かに人を蝕み、助けを求める力さえ奪う。私も、完全にその沼に沈んでいた。

それでも、私は闘う

 本当の地獄は、溺れてから始まる。信じていた人間に突き放され、今度は「世間」という顔のない群衆が、私に石を投げ始めた。

「いい歳をして、みっともない」

「名誉教授が聞いてあきれる」

「欲を出すから、そうなるんですよ」

 スマートフォンの画面に並ぶ言葉は、氷の刃となって私を切り刻んだ。

 メディアは『名誉教授、ロマンス詐欺と投資詐欺で大金失う』と面白おかしく見出しをつけ、私の人生を消費した。

 この街のどこかで、今この瞬間も、同じように泣いている人間がいる。金を失い、人を信じる心を失い、社会の敗残者にされたと感じている人々だ。

 私は、もう黙らない。この痛みを、私の言葉で世に問う。それが、この冷たい社会への、私なりの闘い方だ。

 親友は言った。

「不愉快なだけだ。自分を慰めるための物語なんて、誰も読みたくない」